【戦国策・三人成虎】同じことを何人にも言われると人はつい信じてしまいます

三人成虎

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回は漢文の中でも、よく教科書に出てくる『戦国策』を扱います。

この本は前漢末の学者劉向が、戦国時代の遊説家が説いて回った政策を国別に分けてまとめたものです。

戦国時代という言葉の元になったと言われているのです。

当時の風習や国際情勢を知る上で欠かせない書物です。

当時、いたるところで侵略戦争が行われていました。

しかし武力による侵略は勝敗にかかわらず、必ず国力の疲労をもたらします。

各国は平和的な外交手段によって、戦争を回避しようとしました。

そこで活躍したのが論客と呼ばれる人たちの存在です。

あらゆる手段で自分の考えを説き、時の政権のために活躍しました。

為政者たちは彼らの意見を取り入れながら、政権の延命を図ったのです。

さまざまな思想をわかりやすく説くため、多くの故事や例話などを利用しました。

その中から生まれたものを高校ではいくつも学びます。

ここにあげたものは全て『戦国策』の中にあるものばかりなのです。

江戸時代、多くの学者によって広まりました。

朱子学の大家、林羅山は訓点本まで作成したのです。

名文であるだけでなく、文章がわかりやすいため、多くの人に受け入れられました。

この書物に収められた故事の中には、誰でもが知っている有名なものがたくさんあります。

「蛇足」「隗より始めよ」「漁父の利」「虎の威を借る狐」などを御存知でしょうか。

全て漢文の授業で扱買う内容です。

どれもよく知られた話ばかりです。

漢文の基本が全て入っているので、1年生のうちから少しずつ学習していきます。

あらすじと本文

今回の「三人成虎」のあらすじは次の通りです。

魏の龐葱(ほうそう)が太子とともに趙の都に人質として行くことになりました。

彼は王に「市場に虎が出た」という譬え話に託して、自分の留守中に王があらぬ中傷に惑わされないよう念を押しました。

しかし結局王は中傷に惑わされ、大任を果たして帰国した龐葱は王にお目通りを許されなかったという話です。

本文を読んでみましょう。

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龐葱(ほうそう)、太子と與(とも)に邯鄲(かんたん)に質(ち)たり。

魏王に謂(い)って曰く、

今、一人、市に虎有りと言はば、王之(これ)を信(しん)ぜんか、

王曰く、否(いな)、と。

二人、市に虎有りと言はば、王之を信ぜんか、と。

王曰く、寡人(かじん)之を疑はん、と。

三人、市に虎有りと言はば、王之を信ぜんか、と。

ARLOUK / Pixabay

王曰く、寡人之を疑はん、と。

龐葱曰く、夫(そ)れ市の虎無きや明らかなり。

然(しか)り而(しか)うして三人言へば虎を成す。

今邯鄲は大梁を去ること市よりも遠く、

而(しこ)うして臣(しん)を議する者は三人に過(す)ぐ。

願はくは王之を察せよ、と。

王曰く、寡人、自(みずか)ら知るを為さん、と。

是(これ)に於(おい)て辭(じ)して行く。

而うして讒言先(ま)づ至(いた)る。

後(のち)、太子、質(ち)を罷(や)む。

果(はた)して見(まみ)ゆるを得(え)ず。

注 「寡人」とは「私」の意味。身分の高い人が自分を謙遜する言葉。

現代語訳

魏の太子が趙の国に人質に行くことになりました。

そこで、大臣「龐葱(ほうそう)」がお供でつき添うことになりました。

龐葱は国を出発する前に王に、

「もし一人が、街に虎が現れたと申しましたら、これをお信じになりますか」

と尋ねると、王は「一人なら信じない。」

そこで龐葱は、重ねて訊ねました。

「もし二人が、街に虎が現れたと申しましたら、これをお信じになりますか」

王は「二人ならもしかしたら疑うかもしれない」

さらに龐葱が「では三人ならば」と訊ねると,

王は「信じる」と答えました。

これを聞き、龐葱は「人の多い市場に普通虎は出てきません。

誰かが1人虎が出たと言っても誰も信じないでしょう。

しかしそれが2人、3人になると人間は信じてしまうものです。

私は太子にお供して趙の都、邯鄲(かんたん)へ参りますが、かの地と我が魏の都は遠く離れており、王宮と街の距離など比ぶべくもございません。

そして必ずや私をそしる者が現れ、その数は1人や2人ではないと存じます。

王様にはゆめゆめ軽信なさらず、よくよくお考えくださいますように。

王はもちろん快く承諾しました。

しかし案の定、龐葱が国を離れると中傷する物が次々と現れました。

何年か経ち、皇太子の人質の期限が切れたので龐葱は一緒に国に戻ってきました。

しかし魏王は讒言を信じてしまっていたので、彼をもう一度大臣にすることはなかったということです。

風説のこわさ

「三人成虎」とは、根も葉もない風説であっても、言う者が多ければ、真実と同じ力を持ってしまうことのたとえです。

事実無根の作り話でも、たくさんの人が語れば信じられるようになるということです。

これはまさに現代の怖さをそのまま伝えたような内容ですね。

そこまで読み切っていたということが、何よりも怖ろしいのです。

今の時代はSNS全盛です。

さらにITの技術も進んでいます。

実にたやすくフェイクニュースが流せる時代なのです。

特定の人間だけがそれを行えるというワケではありません。

誰でもがその気になれば、嘘のニュースを簡単に流せます。

ネット社会の怖さですね。

悪意をもって第三者を陥れようとしたら、平気で大量に情報を流せばいいのです。

そこには校閲という思想がありません。

戦争はそうして起こっているのです。

宇宙からの映像を捉えたら、ここには核施設の秘密基地が隠されていた。

このまま放置すれば、世界の安全にかかわる。

よってここを殲滅するためのロケットを発射するなどということは、現実に行われています。

その施設に移動している軍用車の中に、核爆弾のための燃料が積まれたなどというニュースもたくさん流れれば、それ自体が1つの真実になるのです。

けっして昔の話だなどと甘く考えてはなりません。

コロナの発生も似たようなものです。

中国におけるコロナ発生のメカニズムを、何度聞かされたことでしょうか。

すべてが同じなのです。

それだけにネット社会は怖いです。

以前よりも、容易に議会への襲撃も可能です。

アメリカでの騒動を忘れてはなりません。

関東大震災における虐殺事件も同様です。

もう1度、このテーマを考えてみてください。

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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