AIと職業
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回はAIの問題にズバリと切り込みます。
ここ数年、このテーマはずっと入試に出題され続けてきました。
AIが次々と今まであった仕事を奪っているのです。
かつてあった職業が、消えつつあります。
その象徴が銀行の窓口ですね。
ぼくの家の近くにある大手の銀行は、入り口に案内の人が1人座っているだけです。
かつてあったカウンターは消え、窓口にはATMが並んでいます。
融資係は全くその姿を消してしまいました。
考えてみれば、フィルム写真の現像技術者はどこへいったのでしょうか。
今日、ほぼ全てのカメラがデジタル化されています。
というより、カメラそのものがスマホと一体化してしまいました。
一眼レフを求める人はあっても、かつてのハンディカメラはほぼ駆逐されたのです。
現像をしたければ、写真屋の入り口にある機械に頼るか、自宅のプリンターで印刷するしかありません。
ここ10年でなくなるといわれている職業には、証券会社や銀行関係の仕事が多いです。
いわゆる口座開設などという仕事も、完全に過去のものになりました。
電車のキップ販売数も減りました。
キャッシュレス化の流れは、駅やコンビニだけでなく、あらゆる産業にひろがっているのです。
かつて産業革命がブルーカラーの労働者を淘汰した時代がありました。
今はAIが今、ホワイトカラーを分断化しつつあります。
近未来に生き残れる職業は何か。
考えるだけで怖ろしいですね。
今回の小論文は2年前に佐賀大学経済学部で出題された問題です。
筆者は新井紀子氏。
彼女は「ロボットは東大に合格できるか」というプロジェクトの責任者であり、AI研究の最先端をいく研究者でもあります。
最初に課題文を読んでみましょう。
全文は長いので、割愛してあります。
課題文
かつては、多くの人が家電量販店のチラシを見比べたり、量販店をはしごして安い商品を見つけたりしていました。
けれども、それは自分の足で、あまり交通費をかけずに回れる範囲に限られていました。
今や、スマートフォンを使えば、日本中の店で、場合によっては世界中の店で、どの店が最安値で販売しているかがすぐにわかります。
スマートフォンの普及は、消費者の消費行動を変えました。
大型家電量販店に行って販売員から商品の説明を受けて、購入する商品をまず決める。
その店では購入せずに、スマートフォンで最安値の店を探して、通信販売でその店から購入する。
当然ですが、そういう消費者が増えています。
こうした状況が続けば、販売店は最安値の店の販売価格に対抗せざるを得なくなります。
ですから、一物一価にたどり着く時間が短縮されるわけです。
一方、このような状況では、駅前に店舗を構え、専門知識を持った販売員を雇用している販売店はたまったものではありません。
その現象を「ショールーミング」と言い、2017年9月に米トイザらスが破産した一因とも言われています。
トイザらスで子どもにおもちゃを選ばせて、配送料無料のアマゾンで最安値の商品を購入する人が、後を絶たなかったからです。(中略)
繰り返しになりますが、AIは自ら新しいものは生み出しません。
単にコストを減らすのです。
本来はAIにさせることによって、コストを圧縮できるはずなのに、それをしなかった企業は市場から退場することになります。
そして一物一価に収斂するまでの時間がどんどん短くなっていくのです。
それがAIによって起こると考えられる、ディスラプティブ(破壊的)な社会変化です。
この時代を乗り切れない企業は破綻したり、吸収されたりする前に人間を苛酷に働かせたり、品質管理を疎かにしたりすることで、AIに対抗しようとしがちになります。
当然、職場はブラック化しやすくなり、不祥事が起きやすくなるはずです。
問題
設問は次の通りです。
筆者はAIが導入されることによって経済や労働市場に重大な影響を与えると指摘している。
その一方で「産業革命によって失われた仕事があるが新たに生まれた仕事もあるので、AIが多くの仕事を奪ったとしても心配する必要はない」という楽観論も存在する。
こうした意見を踏まえ、AI技術の発達が社会に与える影響と、我々がAIとどのように共存していくべきか、あなたの意見を500字以内で答えなさい。
論点はそれほどに難しい内容ではありません。
整理すれば次のようになります。
①AIにできることは限られている。
生産効率を上げることだけであり、サービスを生んだりトラブルを解決することはできない。
②AIが発達すると、一物一価への時間が極端に短くなる。
③AI社会ではほんのわずかなムダなコストが命取りになる。
手数料、金利で利潤を得ることが難しい。
④AIを使いコストを下げることをしない企業は、市場から退場せざるを得ない。
この4つのファクターをきちんと理解することが大切です。
AIを小説の主人公のように万能化してイメージしていると、ここにある内容が理解できなくなる怖れがあります。
客観的に「できないこと」を捉える必要があります。
つまり生産効率を上げる作業にもっとも向いているという現実です。
人間の起こすトラブルには適応できません。
AIは歓迎すべきテクノロジーなのか
解答にあたって、ポイントになるのが設問の一部です。
産業革命によって失われた仕事があるが新たに生まれた仕事もあるので、AIが多くの仕事を奪ったとしても心配する必要はない」という楽観論がそれです。
確かに新しい仕事は生まれる可能性もあるでしょう。
しかしそれ以上に消えていく職業もあります。
問題には10年後には消えてなくなる職業がリストアップされています。
そのいずれもがAIの代行が可能なものです。
税務申告代行、証券代行、不動産登記、電話販売員、データ入力作業員、自動車保険鑑定などの仕事に従事している人に、失業の可能性があると記されています。
その逆が消えない職業です。
主に人間を相手にしている仕事といえばいいでしょうか。
複雑なニーズに応えるには、かなりのスキルがいります。
全てが同じ要求を発するワケではありません。
例えば、病気の判定は検査の結果があれば、かなりの精度で可能かもしれません。
しかしその後の手術や治療、リハビリなどは技術と知識のある人間に蓄積されたスキルがなければ、先に進むことはできないのです。
その意味で保育、教育、介護などの分野もAIに全て代替させることは難しいでしょう。
となると、次の可能性をどこにさぐったらいいのか。
それが解答への糸口になります。
1つの道は「共存」でしょう。
互いの得意技をうまくかけあわせて、より高次元の活動へ導くこと。
そのために無視するのではなく、人間に不可能なことやミスを誘発しやすい部分にAIを活用することなどを考えるべきです。
あらかじめ設定された枠組みにそって分類したり、検査することはAIの独壇場です。
それを否定することはできません。
だとしたら、よりよい共存の道を探る以外に手はないのではないでしょうか。
結論への糸口もそのあたりに見出せると考えます。
あなた自身で、この設問にじっくりと正対してみてください。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。