社会に対する関心
みなさん、こんにちは。
小論文添削歴20年の元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は問題意識を自分の外に持とうという話です。
どうしたら落ちない小論文が書けるのか。
簡単です。
社会のありとあらゆるところに関心の目を向けていればいいのです。
自分の周囲だけしか見ていない人はダメ。
どんな問題が出ても、書けないのはあたりまえです。
もちろん何にも考えていないというワケではないでしょう。
しかし体系化して認識していないのです。
要するに知識がバラバラなのです。
だから難しいことを問いかけられると、もうギブアップしてしまうのです。
しかしそんなことを言われても、知識なんてそんなに簡単に身につくものではありませんよね。
誰でもがすぐにできるのなら、なんの苦労もしないはず。
そんな声があちこちから聞こえてきます。
わかってます。
みんなうめき声をあげながら、必死に勉強しているのです。
その結果として、次第にみごとな文章が書けるようになるというワケです。
そうはいっても、小論文を勉強するための時間がふんだんにある受験生なんかいません。
他の科目も勉強しなくてはいけないのです。
上達するための手っ取り早い方法はないものか。
1つのヒントをお教えしましょう。
小論文にはいつも共通している内容があります。
それは何か。
外の世界をきちんと自分のものにしようという意志があるのかどうかということです。
半径5メートルの呪縛
自分のまわりの半径5メートルの呪縛から離れる気があなたにありますか。
わかりやすくいえば覚悟です。
そんなの自分には関係がないと考えている人にとっては、全てが遠い世界の話です。
しかし今、目の前に起こっているできごとが自分にとっても深い関係があると考えていれば、当然文章の内容はかわってきます。
このテーマが何のためにあって、その結果として、自分たちはどうなるのか。
そこが1番大切なポイントなのです。
私にはそんな知識がないという受験生がいるかもしれません。
しかし、それならこうした方がいいですよと誰かが手取り足取り教えてくれると思いますか。
それはやはり甘えとしかいえません。
この方法を最初からやっていけば、必ずうまくいくという手があったら、誰だって苦労はしないのです。
そんなすごいメソッドはないです。
ではどうしたらいいのか。
半径5メートルの呪縛から抜け出ることです。
あなたは毎日新聞を読みますか。
読んでいますという生徒に訊くと、いわゆるラ・テ面と特に大きな事件が起こった時の社会面だけを見ているケースが圧倒的です。
新聞には全く関心がないという人もたくさんいます。
あるいはスマホのニュースをたまに読むという人が大半でしょうか。
確かに時々、半径5メートルから外に出ているように見えますね。
しかしそれは興味の範囲が自分の近くにある時だけのことなのです。
刺激的な事件が起これば、誰でも5W1Hを知りたくなるのでしょう。
ところがその時に限った話です。
深掘りは全くありません。
あたりまえはない
今年のある私立高校の入試に次のような問題が出ました。
非正規雇用や格差社会などについて語られている現在、若者の「生活満足度」が上がっているという事実についてあなたの考えを述べよというものです。
この問題文を読んでどう思いましたか。
「非正規雇用」も「格差社会」も明らかにマイナス要因です。
それなのに「生活満足度」が上がるというプラス要因がなぜ飛び出してくるのか。
不思議ではありませんか。
多くの不満があるというのなら、わかります。
しかし現実はその反対だというのです。
あなたなら、このテーマに対してどういう文章を書きますか。
常識的な論点でいえば、マイナスが重なるのですから、よりマイナスの気分がふくらみ、将来が暗いままになるというのが当然です。
しかし事実はその逆だというのです。
本当なのでしょうか。
周囲を見回してください。
そしてあなた自身の心の中を覗き込んでください。
その際、5メートル先の他者の視点を必ず読み込むこと。
何が見えますか。
多くの若者たちは本当に将来が暗澹としていると感じているのでしょうか。
そうだという人も当然いるでしょう。
反対に不安はあるものの、それほどの不満は感じていないという人もいるはずです。
何が理由なのか。
自分から離れつつ、自分を観察するのです。
外の世界から眺めてください。
絶望の国の幸福な若者たち
社会学者、古市憲寿の『絶望の国の幸福な若者たち』を読んでいた人は、命中したと思ったでしょうね。
この本には「若者は他の世代や、昔の時代よりも現在を幸せと感じている」という分析が載っています。
なぜなら現代の貧しさは過去のものとは質が違うという考え方が基調になっているからです。
その大きな要因は「インターネット」です。
スマホの存在が非常に大きいということがよくわかります。
人々は瞬時に情報を共有できるデバイスを持ったことで十分に豊かな生活は送れなくても「現在を楽しむ」ことができるようになりました。
さらにエンタメ施設としてのディズニーランドやUSJもあります。
最近の若者はそれほどにモノを買いません。
自分の可処分所得の中で小さくまとまっているのです。
ネットが普及して以来、パソコン、スマホでの情報収集が桁違いに進みました。
同時にネットを介してのエンターテイメントが、飛躍的に向上しています。
映画や映像を通じて、みごとな画質の「シュミレーション消費」が増えているのです。
外国の風景も4K、8Kでみれば、まさにもう1つの現実そのものです。
ストリーミング放送による映画鑑賞は既に十分なクオリティーに達しています。
デジタル時代に暮らす若者たちは自動車をそれほど欲しがりません。
あればそれに越したことはないというレベルです。
さらにいえば、今の若者は他人と競争する意識が弱く、むしろ協調を重視することで現状に満足する傾向が強いともいえるのです。
失敗をすることをひどく怖れ、モノを買う前にもインターネット等で情報を収集します。
ある意味で自分の人生に過度の期待をしないという傾向もあります。
当然期待値が低ければ、他者と比べても不満はそれほどに大きくなりませんね。
自分の暮らしをみれば、そこそこの水準でまあ満足できる状態だというのが標準的なところでしょうか。
この問題は、きちんと周囲を見渡し問題意識を育てていれば、書けないテーマではありません。
狭い世界で自足していても、若者たちはなぜあまり不満を持たないのか。
実にユニークな観察力に満ちた内容ですね。
自分から半径5メートルの呪縛を越える努力を続けて下さい。
必ず見えてくる風景があるはずです。
それが小論文を成功させる秘訣です。
今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。