【コンコルドの誤り】投資の総量で次の行動を決める人間の悲しい生態

学び

コンコルドの誤り

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回は進化生物学者、長谷川眞理子氏のエッセイを取り上げます。

彼女は動物の進化を、行動生理学の立場から読み解こうと研究している学者です。

ある視点から現代の社会を眺めると、なるほどと思われることがいくつもあります。

そのうちの1つが「行動生理学」なのです。

コンコルドとは何かわかりますか。

イギリスとフランスがかつて共同開発した超音速旅客機のことです。

1969年に初飛行し、1976年に旅客運航を開始したものの、20機が製造されただけで製造中止となりました。

夢の旅客機と言われたものの、2003年には運航が完全に停止したのです。

膨大な費用をかけて開発した、音速を超える旅客機開発の結果がこれです。

なぜこうしたことが起こったのか。

最初に4000億円をかけて開発が始まり、途中で採算のとれないことが判明しました。

それでも計画は終了することなく、最終的には数兆円単位での赤字になったのです。

これと同じことが日本でもありましたね。

三菱重工業は、今年、国産初のジェット旅客機の開発を取りやめ、撤退すると正式に発表したのです。

2008年に「MRJ」の名称でプロジェクトがスタートしたのを覚えていますか。

国から約500億円の支援を受けて開発が始まったのです。

しかし、技術力の不足などで、納期の遅れが重なり、コロナ禍の2020年には事実上、開発が凍結されてしまいました。

開発の継続には、年間1000億円規模の費用がかかると言われています。

受注していたとされる270機は開発の中止により、全て白紙に戻されました。

コンコルドよりもさらに話が悲劇的なのです。

なぜこのようなことが起こるのか。

長谷川氏のエッセイを読んでみましょう。

本文

コンコルド開発にまつわるエピソードをもとに、行動生態学の分野で「コンコルドの誤り」として知られている考え方がある。

今、一羽の雄の鳥が、ある雌に求愛しているとしよう。

これまでに雄は、ずいぶん長い時間を費やし、たくさんの餌をプレゼントに持ってきたが、雌はいっこうに気に入ってくれない。

雄は、このまま求愛を続けるべきか、やめるべきか? 

このような状況で、動物たちがどのように行動するよう進化してきたかを考えるとき、一昔前には、雄はもうこの雌に対して大量の投資をしてしまったので、いまさらやめると損失が非常に大きくなるから求愛をやめないだろう、という議論があった。

ところが、これは理論的に誤りなのである。

コンコルドは、開発の最中に、たとえそれができ上がったとしても採算の取れない代物であることが判明してしまった。

つまり、これ以上努力を続けて作り上げたとしても、所詮、それは使いものにならない。

ところが、英仏両政府は、これまでにすでに大量の投資をしてしまったのだから、いまさらやめるとそれが無駄になるという理屈で開発を続行した。

その結果は、やはり使い物にならないのである。

使いものにならない以上、これまでの投資に関わらず、そんなものはやめるべきだったのだ。

このように、過去における投資の大きさこそが将来の行動を決めると考えることを、コンコルドの誤りと呼ぶ。

求愛行動だけでなく、縄張りの確保や子育てなどのさまざまな状況において、どこでやめるべきかという「意思決定」が必要となるだろう。

そのとき、過去にどれだけの投資をしたかに重点をおき、それを目安に将来の行動が決まるとするのは誤りなのである。

意思決定の瞬間

本文によれば、「コンコルドの誤り」とは次のように定義できます。

過去における投資の大きさこそが、将来の行動を決めると考えることを意味するのです。

この文章は動物の行動生態学の考え方に基づきながら、人間の思考や行動のパターンについて考察しようとしたものです。

あなたに思い当たることはありますか。

一般的に動物は過去の過ちを繰り返さない性質を持っています。

特に種の保存に関することは厳格です。

もしそれをしなかったら、子孫がそこで立ち消えてしまうからです。

ところが残念なことに人間だけが、同じ過ちを繰り返すのです。

動物生態学的にみれば、人間は最も愚かな生物の範疇に入ります。

なぜそうなるのか。

これは大変興味のあるところですね。

あなたはなぜだと思いますか。

人間の活動には、その思考形態に深くかかわるものがあるのではないでしょうか。

例えば過去にこだわり、投資の大きさに固執し、現在の選択肢や将来の見通しに思いが至らないということです。

そこには自分中心にものごとを考えてしまいがちな、厄介な性向があるのかもしれません。

最近よく言われるのが、高学歴の親が子供をダメにしてしまうというパターンです。

自分の子が少しでも勉強ができると思った途端、塾に入れて私立の小中などのお受験に走ったりするケースもよく見られます。

その結果、本来、子供が持っていた美質を潰してしまうという懸念もないワケではありません。

どうしても特定の大学に入学させたくて、結局自宅に引きこもってしまったというケースもあります。

芸術的な分野に特異な才能をみつけたと信じ、高額の費用をつぎ込みすぎ、撤退の時期を見誤る親の例もあります。

それまでに使った費用が莫大であればあるほど、引き際が見えなくなってしまうのです。

コンコルドの誤り」とでも呼べる例を、あなたの周囲に見出すことができますか。

それが可能であれば、この話はより身近なものになりうると考えられます。

パラダイムの転換

結論は常にパラダイムの転換が必要だということです。

意味が分かりますか。

パラダイムとは特定の分野、その時代において規範となる「物の見方や捉え方」を指します。

世界をリードする思想や価値観のことです。

ここでは次のような一般化ができますね。

投資を継続するかどうかという将来の行動の判断基準は、過去における投資の大きさに置くべきではなく、つねに将来の成功の可能性を基準にするべきであるということです。

投資の大きさが将来の行動を決めるという考え方は誤りです。

最善の方法はある対象への投資を続けることが損失につながると分かっている場合、その場で全てを断ち切ることです。

それにもかかわらず、既に行った投資を惜しみ、投資をやめることができないのが人間なのです

悲しいと性だと言ってしまえば、それだけのことです。

ギャンブルなどはまさに取り返そうとして、さらに深みにはまるものの典型でしょう。

株などの投資においても、損切りの難しさが成否を分けます。

買うよりも売る時のタイミングが難しいのです。

もう少し持っていれば、再び上昇するかもしれないと人間は思いこみたい動物です。

経営者は、自分の会社が赤字経営になった時、資金繰りに悩みます。

つい高金利のお金に手を出して、傷口を広げていくものなのです。

これは理屈ではありません。

コンコルド効果が判断にもたらす影響は、赤字事業の経営からソーシャルゲームの課金まで、一見非合理的に見えるあらゆる行動に及ぶのです。

「一向に気に入ってくれない」メスに対して、「このまま求愛を続けるべきか、やめるべきか?」という状況におかれているオスの悩みは、永遠に続くと考えてください。

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今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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