少子化の影響
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
近年の様子は次の通りです。
小論文は難問を多く出題する大学と、その反対に比較的書きやすいテーマを出題する大学に分かれてしまいました。
難易度が分散化しているのです。
なぜかといえば、明らかに少子化の影響が強いです。
大学志願者数をみると、2023年度は約64万人でした。
大学志願者数がピークとなっていた1992年と比較すると、30%ほど減少しています。
この傾向はこれからも続くことでしょう。
今年の出生者数は70万人と予想されています。
その6割から7割が18年後に大学を受験するとすると、多く見積もっても50万人しか、志願者がいません。
その予兆が、現在日本中のあらゆる大学に押し寄せているのです。
定員を確保できない大学が、かなりの数にのぼるというデータもあります。
女子大なども以前に比べれば、受験者が減り、定員を充足させるために大変苦労をしているようです。
そこへ登場してきたのが「年内入試」なのです。
この勢いは想像以上のはやさで、広まりました。
その先端に存在しているのが総合型推薦入試です。
以前はAO入試と呼んでいました。
受験は面接と小論文が基本です。
学校によっては「探求」と呼ばれる研究テーマや、論文を提出するところもあります。
しかし他校よりもはやく学生を確保したいという要求が強いため、はやく合格通知を出すことが至上命題になりつつあります。
小論文が切り札
そのための方法論が「小論文」なのです。
必然的に難しいテーマの文章を書かせることが少なくなりました。
その反対側に位置しているのが、本来の意味での総合型推薦で出題される難解な小論文です。
合格決定の時期は同じですが、倍率も高く、内容も高度です。
長い課題文を要約し、理解するだけでもかなりの学力と文章力を必要とします。
その一端をここに紹介しましょう。
実際の問題は非常に長いので、今回は設問の出し方に着目して、ここに掲載します。
通常は設問が提出され、そこにはさまざまに複雑な現代のテーマが掲げられています。
その難題を解決していくために、どのような方法があるのかを、受験生は自分の経験や見聞を題材にして論じていくのです。
ところが、その正反対の出し方をする方法があります。
自分からテーマを作りだし、解決策を考えるタイプの設問です。
いわゆる「自己生成型問題解決小論文」がそれです。
最初に設問のサンプルを提示しましょう。
これを読んだだけで、この問題がいかに難しいかということがすぐに理解できるはずです。
設問例
設問の最初に前提が示されます。
この内容を把握したのちに設問があるのです。
きちんと読んで内容を理解してください。
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①いま現実に存在する問題を、科学技術を用いて科学的に計算する新たな方法を提案してください。
②計算する問題は、科学技術上の問題でも、社会問題でもかまいません。
③地球規模の問題でも、身近な問題でもかまいません。
④科学技術を駆使して、現実の問題に取り組むためには、問題を計算し、データを得ることができません。
➄得られたデータを通して問題を正確に把握し、それを踏まえて解決方法を考案していくことになります。
⑥また測定するデータに基づき、問題の要点を把握するのに役立つ新しい単位を考案してください。
問1 あなたが解決しようとする、現実に存在している問題を200字以内で説明してください。なぜそれが問題なのかについても述べてください。
問2 問題を科学的に軽量するために、どんなデータをどんな方法で測定するのかを400字以内で説明してください。
問題を正確に把握するために、何を知る必要があり、どうすればそれを計量することができるのか考え抜いてください。
この他にさらに新しい単位を考案し、200字で説明しなさい、というのと、新しい単位によって明らかになる問題の性質とは何かということを600字で書かせる設問もあります。
全部で4つの設問があるわけです。
切り口を見出す作業
これを読んで、あなたは何を最初に思いつきましたか。
これからの時代は問題を見つけられる能力が必要だということはよく言われます。
しかしこのようにストレートに訊ねられると、どこに切り口を見つけたらいいのか悩みますね。
テーマになりうることは、科学技術上の問題でも、社会問題でもかまわないとあります。
これも1つのヒントでしょう。
実はこの設問のあとに長文がいくつも載っているのです。
村上陽一郎『科学技術の200年』、茂木健一郎『脳と仮想』、蔵本由紀『新しい自然学』、西條敏美『単位の成り立ち』がそれです。
Ā4の用紙10枚ほどが、それらに費やされています。
ここまで重量級の問題を出す大学は、それほどにはありません。
受験するにはよほどの覚悟が必要ですね。
制限時間は120分です。
具体的に大学名を示しましょう。
慶応義塾大学SFCです。
小論文の問題はいずれも先駆的なものばかりです。
視点としては、今日多くの現象を「科学」で計量できるものに時代が傾きつつあることをとらえる必要があります。
その次に、科学を信奉する意識が独り歩きしつつある現代を、別の単位で切り取れるものがあるのか、という論点をさぐることです。
課題文に「脳」を扱ったものがあることにも着目しましょう。
ある意味でAIにからめて論じることも可能です。
SDGsの中で社会問題とからめることができるテーマはあるか。
それを新しい単位で解決するなどという思想が果たして可能かどうか。
制限時間の中で、めまぐるしく思考しなくてはなりません。
相当な知識量が必要ですね。
学際的な知識を
さまざまなことをあらゆる方向から勉強していないと、とても解答はできないと思われます。
これが本来の小論文のあり方と呼ばれるものでしょうね。
うまくいけば、自分が大学で勉強したいことをアピールする場にもなります。
今までの科学で扱えずに、あなたが大学で学びたいと考えていることは何か。
それを明らかにすることは有効です。
面接などとリンクさせて小論文が使われることもあるので、アピールする場にもなります。
ポイントは学際的な分野を俎上にあげることでしょうね。
理科系と文科系という垣根をはらうことです。
環境、医療、社会問題、芸術などの分野で、あなたが関心をもったことは何か。
AIを利用した翻訳などは、文字起こしの技術とあわせて、近年かなり進歩をしてきました。
その技術を利用し、他者の心の理解に有効活用はできないか。
あるいはリモートで離れた人との多言語環境の中で、相互に幸福感を
どのように探ることができるかなどといったテーマも十分に考えられます。
また表情の認証機能なども、以前よりかなりすぐれたものになりつつあります。
それを利用して、精神的に閉塞状態にある人間と、コミュニケーションをとる方法はないか。
微妙な表情筋の動きを通して、会話を継続するためにはどうすればいいかなどというテーマも考えられます。
そのための測定方法も開発が可能だということを示すこともできます。
あくまでも科学以外の分野の社会問題を、科学の力で分析するのです。
科学を科学で解決するというのでは、この設問の趣旨にはあいません。
もちろん、かなりの練習が必要なことはいうまでもありません。
こうして考えてみると、科学と社会問題との接点は想像以上にあるのではないでしょうか。
120分という制限時間の中で4つのワクを1500字でまとめるというのは、容易なことではありません。
しかしこれがいわゆる小論文なのです。
ぜひ、一度チャレンジしてみてください。
実際の問題には長い課題文があると書きました。
これらが全てヒントになります。
ただし高い国語力がないと、とても読み切れず、消化不良を起こす可能性があります。
心して、臨んでください。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。