江戸時代へワープ
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科講師、すい喬です。
道楽で落語をやっているのは、プロフィールにも書いてある通りです。
もう15年を過ぎました。
落語にはよく都都逸(どどいつ)というのが出てきます。
ご存知ですか。
多くのことは聞いたことがないよ、何それの世界でしょうね。
都々逸っていうのは、江戸末期に初代の都々逸坊扇歌(とどいつぼうせんか)によってつくりあげられたものです。
いわゆる定型詩です。
七・七・七・五でできてます。
他に五・七・七・七・五というのもあります。
俳句でも短歌でもない。
もっばら男女の話がメインです。
だからちょこっと知ってると、何とも恰好がいいのです。
1つ覚えて口にするだけで、その瞬間から江戸の町へワープしちゃいます。
その昔、柳家三亀松という芸人がいました。
女の人の口調で旦那に話しかける時の風情が実に色っぽかったんです。
「ねえ、ちょっと」とか言いながら鼻にかかった甘い声を出します。
三味線を背中に回してね。
なんとも粋な様子が、人気の秘密でした。
いわゆる花柳界を根城にしていた芸人たちです。
ここで都都逸の代表的な歌をご紹介しましょう。
ぜひ、1つでもいいので、覚えてください。
友達が意外な顔をすると思います。
代表的な歌
誰の似顔か羽子板抱いて 髷を気にする初島田
四国西国島々までも 都都逸ぁ恋路の橋渡し
お酒呑む人花なら蕾 今日も咲け咲け明日も酒
ふざけたのもあります。
雪のだるまをくどいてみたら なんにも言わずにすぐ溶けた
言葉のシャレが聞いてるでしょ。
特に3つ目のは聞いたことがあるかもしれません。
今日も「酒酒」と今日も「咲け咲け」が掛詞になってます。
つまり同じ音で意味が違うんです。
これが日本語の世界を深くしてますね。
笑点なんか見てると、このダジャレと呼ばれる掛詞がすごくよく出てきます。
気持ちがいいのでもう少し。
明けの鐘 ゴンとなる頃三日月形の 櫛が落ちてる四畳半
これどうですか。
三日月と四畳半がいいでしょ。
何があったのか知りませんけどね。
これが八畳じゃダメ。
四畳半というところに、なんとも色気があるんです。
そこに三日月形の櫛が落ちてるというあたりの風情はたまりませんね。
どうですか、江戸時代のお店の奥の部屋までワープできましたか。
これは「棒鱈」という落語の中に出てくる大変色っぽい歌です。
三味線の爪弾きで聞くと、たまらないですよ。
こういう情緒が粋というものなんです。
知らなくてももちろんかまいません。
でも知ってるだけで世界が広がりますね。
高杉晋作の作
三千世界の烏を殺し 主と朝寝がしてみたい
これは高杉晋作の作と伝えられている歌です。
江戸末期の偉人たちはこんな歌も作ってたんですね。
なんとおしゃれでしょう。
気分がいいのでもう2つ。
この酒を止めちゃ嫌だよ 酔わせておくれ まさか素面じゃ言いにくい
浮名立ちゃ それも困るが世間の人に 知らせないのも惜しい仲
この歌もよく噺にでてきます。
なんともいじらしい女の人の真心がでてます。
今時、こんな人はいないでしょうけどね。
それでも味わいたいなんていうのはわがままですか。
粋とは
イキというのは難しいです。
くどくちゃいけない。
反対語は「野暮」です。
しつこくてさらっとしてない。
粋はいさぎよいのです。
同じことを繰り返すのは絶対にダメ。
くどくどした説明は許されません。
全ては直感の世界に委ねられるのです。
こうした日本の文化を消したくありませんね。
まさか三味線までおやりなさいとは言いませんけけど。
気分だけは江戸の町にワープしたいじゃありませんか。
今日はここまでにしておきます。
重ねて言います。
しつこいのはNGですよ。
さらりとしていないと、女性にはもてないのです。
今日はまことに暢気な話で失礼しました。