基本的人権
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は人権の問題を正面から取り上げましょう。
小論文の課題として、入試に出される可能性がかなり増してきました。
社会情勢が流動的だからです。
人権をテーマにしたキーワードはたくさんあります。
女性問題、差別、障害者、少年法、実名報道、さらに性的少数者の問題です。
特にセクシュアル・マイノリティについては国会でもとりあげられ、法制化されました。
LGBT法案という通称は正式のものではありません。
もともとは2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピック前の成立を目指していたのです。
しかし保守派内における反対の声が根強いために、法案提出は見送りとなりました。
この法案は日本国憲法の基本精神に則り、「性自認を理由とする差別は許されない」というのが主旨です。
しかし条文の調整にはかなり難航しました。
幾多の文言修正などを経て、2023年6月、ようやく国会で可決したのです。
今年前半の大きなトピックスと言ってもいいでしょう。
来年度入試にはあなたの考えを問う小論文の問題として、登場する可能性があります。
このテーマがそのまま出題されるかどうかの、確証はありません。
しかし欧米との考えの違いを比べて、論じさせるような方法はとれそうです。
欧米で深まるLGBTQへの理解に対して、日本は同性婚の議論が足踏み状態だったからです。
生産性が低くなるという発言に象徴されるように、少子高齢化社会を背後にひかえている段階で、多くの人が立ち止まっていたのが現状なのです。
人権の問題はあまりにも複雑なだけに、問題を作成する側も、かなり神経質にならざるを得ません。
LGBTQを2024年度入試のキーワードに加えておいてください。
LGBTQ
最初にこの表現の意味を捉えなおしておきましょう。
LGBTQとは、Lesbian(レズビアン=女性同性愛者)、Gay(ゲイ=男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシャル=両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー=心と体の性が異なる人)、Queer/Questioning(クィア、クエスチョニング=性自認が定まらない人)の頭文字をつなげた略語です。
いわゆる性的少数者(セクシュアルマイノリティ)の総称なのです。
最後の「Q」がよくわからないという人がいますね。
自分でもはっきりしない状態をさす、と考えておいてください。
LGBTQに関する法整備は、欧米をはじめ世界各地で進んでいます。
基本的に「LGBT」であることで、人権が阻害されないという大前提にのっとっています。
日本にもこのような形での結婚を認めてほしい、というケースはかなり増えました。
欧米にとっての「あたりまえ」は、日本では長い間通用しなかったのです。
しかしここへきて、かなりの自治体もそれを認める方向になってきました。
それを背景にした法制化と考えれば、わかりやすいはずです。
歴史をたどると、1970年代になってから、ゲイの人達が差別撤廃や法的権利をつよく求めるようになりました。
それが近年はSDGsの考え方と合体し、ジェンダーの平等などを訴えるようになってきたのです。
多様性(ダイバーシティ)を認めるという世界の流れも、この思想を後ろからバックアップしています。
以前ならば、男性同士が結婚をするなどというニュースがテレビで流れることはありませんでした。
先日もNHKがパリからの生中継で、フランス人と日本人の男性カップルが結婚したという話を紹介していました。
堂々とカフェでインタビューに応じている様子をみると、明らかに人権感覚そのものが変化しつつあるのを感じます。
「異性愛でなければ認めない」としてきた、従来の意識も大きな変革を迫られています。
地方都市の課題
もう1つのテーマは女性問題です。
今日の新聞のコラムに、地方で女性が生きにくいという問題のインタビューが取り上げられていました。
語り手は家族社会学者、宮本みち子氏です。
その記事によると、コロナ禍1年目の2020年度、配偶者からのDVは18万件で前年度の12万件の1.5倍だったそうです。
DVが増えたことで22年度の自殺者数は前年より多い7000人を超えています。
「男は仕事、女は家庭」という性別役割分担意識が社会に根強く残り、特に地方においてその傾向が強いというのです。
若い女性の県外流出が止まりません。
地方から23区への流入者も女性の方が多いのだとか。
つまり、都会の方が女性にとって生きやすく、魅力があるのです。
地方では男性支配の構造が家庭内に根深く、暴力での支配がいまだに公然と行われている状況も見られます。
さらに女性を労働力としては期待しても、経済的には支配し、身体的、精神的に拘束する傾向も強いのです。
コロナ禍での給付金をめぐって問題になったのは、家族を一体のものとして世帯単位で給付が行われた結果、夫が全てを独り占めし、弱い立場の妻や子供にまで届かないという例が、さまざまな場所でみられたのです。
女性の立場が強くなったとはいうものの、家庭や社会で男女平等が広くいきわたっているのかといえば、そう簡単な話ではありません。
親が苦労しているのを見れば、子供たちはその狭い社会の枠から抜け出そうとするに違いないのです。
女性差別をなくせと口でいうのは簡単ですが、それを実感するには、まだ長い道のりが必要です。
あなたの周囲に、似たような例はないでしょうか。
小論文で人権の問題を書く時は、必ず自分の周囲に取材することが大切です。
そうでなければ、実感のある文章は生まれません。
解決への意識
差別の問題を考えるとき、1番大切なのはなんでしょうか。
当然、その苦しみを軽減していくことです。
しかしそれは容易なことではありません。
自分が気づかずに人を苦しめていることもあるからです。
言葉1つでも相手はつらいのです。
しかし加害者の側はそのことに気づいていません。
大切なことは差別用語を極力使わないことです。
本当に小さなことですが、そこから始めるしかありません。
放送局やマスコミは、過剰なくらいに神経を使っています。
あまりに極端にすぎると、今度は言論の自由に抵触します。
人権の問題は非常に根が深く、厄介なのです。
その距離感を常にはかるだけの許容度が必要になる所以です。
人権のテーマは他にも無数にあります。
どれもが重く、小論文の問題としては大変に複雑で難しい内容を含んでいます。
少年法などの改正でも、どこまで実名報道が許されるのかなどいう課題もあります。
いずれにしても、設問の趣旨をよく読んで、どの程度書けばいいのかについて、真剣に考えてください。
自分の実感が何よりも大切であることは、論を待ちません。
極論は許されませんが、どちらにもつかないような中庸だけを旨としたのでは、採点者に響かないのも事実です。
実はこの点が人権に関する問題の中で、1番難しいところなのです。
どれか、テーマを絞って書いてみてください。
1時間800字を目安にすることです。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。