【朝日新聞政治部・鮫島浩】特ダネへの執念が最後まで炎に【全貌】

政治部記者

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回は話題の本を取り上げます。

『朝日新聞政治部』がそれです。

5月末に講談社から出版されました。

著者は2021年に50歳で早期退職したばかりの鮫島浩氏です。

新聞社内部のことというのは、なかなか外には伝わってきません。

ぼくはかつてNIEの研究員をしていたことがあります。

ご存知でしょうか。

「Newspaper in Education」の略です。

元々はアメリカの新聞協会が始めたものです。

新聞を利用することで識字率の低さを改革したいという理念から始められました。

日本でも新聞協会がリーダー役となって、あちこちの学校で実践されています。

無料で新聞を届け、それを材料に授業をするというスタイルのものです。

受講している生徒分の新聞を配達してくれるという特別のシステムなのです。

その相談のために、何度か新聞社にも赴きました。

実際に編集をし、割り付けをしている現場をみせてもらい、電子計算機が縦横に活躍している状況を知りました。

割り付け作業も全てコンピュータが自動で行う現在の姿には目を見張るものがあります。

しかし原稿を書くのはどこまでいっても人間です。

geralt / Pixabay

それをどう評価するのか決定するのも人間です。

そういう意味では、人間集約型の実に手間のかかる仕事だといえるでしょう。

1999年、著者はその新聞社の政治部に配属され、記者人生を送ることになります。

最初に出会った多くの先輩が呟く言葉の中に、ぼくはリアリティを感じました。

有名な主筆のYさんはこう言います。

「君たちね、せっかく政治部に来たのだから、権力としっかり付き合いなさい」

権力を監視するのが新聞の役目だと思っていた筆者は、この一言に驚きます。

大学を出たばかりの世間知らずで怖いもの知らずだった彼は、さっそく質問します。

権力って誰のこと?

「権力って誰のことですか」

この時、Yさんはしばし沈黙し、その後こう言います。

「経世会、宏池会、大蔵省、外務省、アメリカ、中国だよ」

経世会とは田中角栄や竹下登の流れをくんだ武闘派組織です。

当時、最大派閥でした。

宏池会は池田勇人、大平正芳、宮澤喜一などが出た大蔵省リベラル派の官僚集団です。

現在の岸田文雄首相も宏池会のメンバーです。

昨今では大宏池会構想が歩きだし、ここに麻生副総理がからんで、派閥の争いが厳しさを増しています。

この当時の経世会にあたるのが今なら清和会でしょう。

福田赳夫が創設し、安倍晋三前会長まで最も多い議員数を誇っています。

しかしこれからは次第に力を弱めていくだろうというもっぱらの噂です。

旧統一教会の事件とからんで、最も先頭を走っていたにも拘わらず、前会長亡き後の後任が定まっていません。

清和会にはコンプレックスがあったという話も興味深いです。

日本の政治はずっと経世会が握ってきたのです。

経世会は宏池会に相談し、社会党に根回しをします。

社会党がNHKと朝日新聞にリークし、その報道をはじめて見て、やっと清和会の議員たちは政界の流れがわかるという縮図だったのです。

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これが政治の持つ厳しいダイナミズムの一端です。

そこからのしあがってきた清和会だけに今度の事件が、どれほど重みを持っているのか。

会のメンバーが1番その意味をよく知っているはずです。

日本という国家の「権力」はこの6者の複雑な利害関係で成立していると言われた時、若い筆者にはなんのことがわかりませんでした。

しかしそれが後の記者生活で、身に沁みていきます。

Yさんが主筆となって朝日新聞を牽引した瞬発力には頭が下がると彼は書いています。

総理秘書官

この後、筆者は総理秘書官番をつとめます。

毎朝、Y氏の自宅に通うのです。

特ダネをとりたいとはやる気持ちをおさえて、とにかく日参するのです。

国会開会中、Y氏は朝5時に家を出ます。

筆者は朝4時に起き、ハイヤーで秘書官の家に向かい玄関で待ちます。

顔をあわせても挨拶もしてくれません。

しかし黙って迎えのハイヤーに彼を乗せてくれます。

何を質問しても無言です。

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取材メモは何もありません。

しかし1年も同じ行動をしていると、首相秘書官の心の内が読めるようになったと言います。

朝駆けに間に合わなかった日には、Y氏から「今朝はどうしたの」という電話がかかるようにもなりました。

そういう時は居酒屋でお酒を飲んだそうです。

心を許したのでしょう。

出身省庁との間で意見の齟齬がある時は苦しそうだったといいます。

基本は総理の意見を聞き、どうしてもダメな時は省庁の意見をとおしてもらうという複雑な作業を全て腹芸で行わなければならないのです。

官僚の生き様をみたという意味では、偉大な教師だったのでしょう。

政治家との出会い

面白かったのは、竹中平蔵、菅直人らとの出会いです。

たった1人でのりこんできた竹中平蔵はだれからも無視され、ファミレスで彼と一緒に食事をします。

それがやがて権力の中央に立った途端、訪れる人間をさばききれない状態になるのです。

菅直人も総理になり、福島原発の事故があった頃の記述は、そこにいるかのように生々しいです。

面白かったのは、2003年の総裁選で小泉純一郎に負けた古賀誠の話です。

小泉総裁から入閣を要請されたと他社が追っかけ記事を書いたものの、筆者にはその確証がありませんでした。

ウラがとれない限り、記事にはできないと思った筆者は古賀本人に取材をかけます。

その時、古賀氏は「あなたの好きに書きなさい」と穏やかな表情をして呟いたとか。

それ以降、人間心理の襞の奥まで、教えられたと書いています。

古賀氏ほど権力闘争に執着し、人間の心理を細かく洞察して情報戦を駆使し、本音を明かさない政治家と会うことはなかったそうです。

彼の言葉をそのまま書き抜きます。

「人間はね、騙すより騙される方がいいんですよ。何回でも騙されなさい。それが財産になるんです。

そしていざという時がきたら、相手の目をみて言うのです。今度こそは本当ですよね。と、その時のために騙され続けるのですよ」

怖いですね、政治家というのは。

全身が嫉妬の塊なのだそうです。

読んでいてゾッとしました。

会社の先輩にも似たような含蓄のある言葉を呟く人がいたそうです。

「君が経世会を取材していて梶山清六が前にいたとしよう。俺と小沢とどっちが好きかと訊かれたら、なんと答える。」

「2人とも好きですなんていったらそれで終わりだ。」

「正解はどっちも嫌いですだ。」

「闘争心の激しい政治家ほど、自らの政敵を嫌いですと言われると嬉しいものなんだよ」

「まだウラがとれない時、10人の記者のうちの2人がこっちだちといったら、キャップの勘で進むことがある」

特ダネをとった2人は有頂天だから放っておけばいい」

「残りの8人は当然やりきれないで落ち込んでる。取材の気力も落ちる。だから特ダネを出した夜は残りの8人と飲みにいくんだ。そして励ます。それがキャップの仕事だ」

いい言葉ですね。

肝に銘じたいと思います。

後半の朝日新聞に対する内部告発については、ぜひご自身でお読みください。

新聞記者といえども会社員です。

社の方針に従わなくてはいけません。

その二律背反が今の現状そのものかもしれないのです。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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