【小論文・夫婦別姓】1つの姓にこだわることで生じる不都合な真実

小論文

最高裁判決

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回は「選択的夫婦別姓」の論点を整理しておきましょう。

このテーマはつい数日前に最高裁判決が出たばかりです。

今後さらに議論が進むものと思われます。

日本人論、人権、アイデンティティなどに関わる大きな問題です。

2022年度の入試に登場する可能性大です。

6月28日に出された最高裁の決定は以下の通りです。

夫婦別姓が選択できない戸籍法の規定は違憲として、国に損害賠償を求めた訴訟に関して最高裁第1小法廷は原告側の上告を退ける決定をしました。

これで一、二審判決が確定したのです。

民法と密接不可分な戸籍法の規定も合憲という判断です。

日本では、結婚する時、男女どちらかが一方の姓に変更しなければなりません。

同性、別姓を選択する自由はないのです。

現在は改姓をする96%が女性の側になっています。

あなたの周囲を見回してみてください。

夫になる人の姓に妻側が変更するケースがほとんどではないでしょうか。

いわゆる入り婿型の結婚の場合以外に、女性の姓を名乗らないのです。

日本にいるとだいたいがこのパターンで、特に違和感はありません。

しかし韓国人の生徒に呼ばれた結婚式では、それぞれの姓がかわることがないという事実をしっかりと胸に刻んできました。

中国も同様です。

ごく当たり前にそうなっています。

実は夫婦同姓を強制している国は、今や先進国の中では日本だけなのです。

世界的に見ても夫婦別姓を選択できる国がほとんどです。

日本だけがほとんど夫側の姓になるというこのシステムをかえたいという人が出てきても不思議はありませんね。

事実、職場ではいつも使っているのと違う姓が突然、何かの拍子で飛び出し、この人の苗字はいったいどっちなんだと思うことが何度かありました。

最近では、通称で呼ぶことがごく自然になっていますからね。

日本は特別なのか

日本での夫婦別姓の現状はどうなっているのでしょうか。

姓名は個の表象であり、個人の人格の重要な一部であるという考え方があります。

いわゆる人格権です。

民法750条には「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」という条文があります。

日本では、法律上夫婦別姓は認められず、婚姻の際に一方が他方の姓に変更しなければなりません。

もちろん「通称」は違ってもかまいません。

ただし法律上は、結婚するために夫婦のどちらかが姓を変えなければならないことには変わりがないのです。

これは日本に固有の考え方なんでしょうか。

実は今のシステムの元になったのはそれほど昔のことではないのです。

明治31年の旧民法がその起源です。

この制度が決まるまでには紆余曲折がありました。

明治8年、「平民苗字必称令」ができます。

koshinuke_mcfly / Pixabay

その3ヵ月後には「婦人はその生家の姓を称するべきか、それとも夫の姓を称するべきか」の伺いが内務省に出されているのです。

この時の回答は、婦女は結婚してもなお元の実家の姓を称すべきというものだったと言われています。

今と逆ですね。

ところがしばらくするうち、夫の姓を名乗るのが一般的ですよというお達しも出ています。

大地主や中小の自作農民には元々、姓はあったのです。

しかしそれを公称することは禁じられていました。

苗字帯刀は武士の専売特許でした。

人権侵害

ここからがこれからの問題点になります。

夫婦同姓を強制する法律の実際の運用がやはり問題だとする人は多いようです。

実質的には婚姻の際に女性に対して姓の変更を強制するものとなっているからです。

この問題は根が深いですね。

特に最近のジェンダーフリーやアイデンティティの問題に深く関わってきます。

人権侵害ではないかという指摘もされています。

なんとなく違う人になってしまうようで、イヤだというのが実感でしょうか。

あなたはどう考えますか。

結婚する人の数が減る一方、離婚する人の数は増えています。

社会で働いている人にとって、姓が変わるというのは大きなインパクトを持っています。

一貫性が保てないということも当然あるでしょう。

あるいは離婚後に子供の姓をかえることで、いじめの対象になるのではないかという議論もあります。

この問題は訴訟が起きて以来、ずっと論争の種になってきました。

最高裁大法廷は2015年に合憲との判断を下しました。

しかし、その時も大法廷判決の裁判官15人のうち、5人の裁判官は違憲という判断をしたのです。

確かに違憲の主張は認められませんでした。

しかし夫婦の姓のあり方に対する問題が社会に広く認知されるようになりました。

2017年に実施された「家族の法制に関する世論調査」でもそのことは明らかになっています。

選択的夫婦別姓を認めるために法律を改めてもかまわない、と賛成する人が42.5%に上ったのです。

法律を改める必要はないと反対する人の29.3%よりも、約13%高いという結果が出ています。

ここにはグローバル化時代の世論の変化がみてとれます。

世界に目を向けた時、日本だけがかたくなに夫婦別姓を守る必要があるのかどうか。

旧姓を使用しながら社会で活動する女性の増加などの影響が大きいでしょうね。

政令改正

2019年には住民票とマイナンバーカードに旧姓を併記することができるようになりました。

次第に実態に近づきつつあるというのが、これまでの流れでした。

しかし今回の判決を見ていると、大きな壁があることを感じます。

それは政治の流れです。

夫婦同姓を強制しているのは、民法とそれを受けた戸籍法です。

夫婦別姓の実現のためには、民法及び戸籍法の改正が必要となるのです。

最後は国会での法改正がポイントになります。

現在の勢力分布を見る限り、強固な保守層に守られている要素がみてとれます。

そのあたりを裁判所も冷静に判断しているのではないでしょうか。

どうしても夫婦別姓になりたいという場合、今の法律では無理です。

事実婚の形をとり、法律婚をしないことです。

婚姻届けを出せば必ずどちらかの姓を選ばなければならなくなります。

内縁関係を選択する場合は面倒です。

Photo by Dick Thomas Johnson

住民票上に関係が明確になるよう、登録の際、続柄欄に「妻(未届)」「未届けの妻」などと記載してもらう必要があります。

なお、夫婦別姓にすることによるデメリットは子供の親権、財産の相続、税金の諸手続き、住宅ローン取得などにあらわれるケースが多いです。

とにかく細かいことがたくさんあります。

基本は全て夫婦単位でのシステムになっているのです。

教育上の問題としては、子供の学校でのいじめ、アイデンティティの確立に対する不安などが考えられます。

しかし全くメリットがないワケではありません。

姓が一生かわらないということは、精神の安定をもたらすだけでなく、仕事の場においても成果が持続します。

煩雑な手続きもいりません。

銀行口座、保険、免許といろいろ煩雑ですからね。

なにより女性は男性の従属物ではないという心の健康が得られます。

これも大変に大きなメリットです。

この議論は今後も長く続くものと予想されます。

国家のかたち、民族のあり方もふくめて、問題は複雑に山積しているのです。

あなたも考えてください。

けっして他人事だと思ってはいけません。

小論文を書く時は必ず自分の問題として向き合わなければいけないのです。

今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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