指定校推薦はおいしい
みなさん、こんにちは
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今では大学入学者の約半数が推薦入試組です。
推薦入試といっても、指定校制推薦と公募制推薦に分かれます。
さらに総合型入試も、今ではあたりまえ。
今回はその中でも特に指定校推薦にこだわってみましょう。
指定校推薦というのは大学が指定した高校に対して、推薦枠を与える入試選抜の仕組みです。
大学側はその選抜された生徒に対して学科試験を行いません。
場合によって面接や小論文などの試験を行って合否を判定するのです。
わかりますか。
もう誰でもが知っている話ですよね。
指定校推薦の試験は一般的には10月の末から11月にかけて行われます。
基本的に落ちることはありません。
受験料も1校分だけでよし。
合格後は遊んで暮らせます。
生徒にとってこんなにありがたい入試はありません。
ちょうど文化祭の時期と推薦入試の校内締めきりが重なったりもします。
先生達はこの頃、会議室に集まってヒソヒソと推薦入試の校内選考会を行うのです。
ぼくも推薦入試の選考会には何度もでました。
進路部と担任だけの秘密会議です。
ここで決定したことはもちろん、選考の詳細も外部にはマル秘。
誰にも言えません。
そのための書類が配られ、選考が始まると、息苦しい時間が流れます。
なぜか。
ここで決定すれば、即合格だからです。
以前はいくつかの大学で不合格になったケースもありましたが、今はありません。
もしそれをすると、次年度から生徒を送ってくれなくなるので、大学側も用心しています。
指定校推薦はあくまでも、大学と高校との信頼関係で成り立っているのです。
高校側がこの生徒は十分にあなたの大学で通用するだけの人格、資質、学力を持っていると判断し推薦すれば、大学はそのまま信用する以外に方法がないのです。
評定平均値
それでは何が判断の基準になるのか。
もちろん成績です。
高校2年の3学期
高校3年の1学期
この全ての評定を足して、それを科目数で割ります。
これを評定平均値と呼びます。
通常指定校推薦はAかB段階がその対象になります。
B段階 3.5~4.2
C段階 2.7~3.4
大学によっては個別の科目ごとに細かなランクを要求してくるところもあります。
しかし一般的にはこの数字が大手をふって通用することになります。
学校間で成績の格差はないのか。
もちろんあります。
だからこそ、大学側は神経をすり減らして、どこの高校に何人推薦を依頼するのかを決定するのです。
入学してくる生徒の質が落ちれば、次年度の推薦ワクを減らすことも、勿論あります。
それだけに入学する生徒も重い責任を負います。
それでも無試験で入学できるというこの制度はとてもおいしいのです。
昨今は入学当初から推薦入学を狙っている生徒がかなりいます。
この高校に入ったのは推薦の枠があるからだ。
○○大学に入るにはここの推薦ワクに入るのが一番有利だと思った…。
いろいろな反応があります。
事実、一般入試ではなかなか通りそうもない難関へ、合格していく生徒をたくさん見てきました。
先輩達が頑張って獲得してくれた入学枠です。
それをうまく使わない手はないという、現代っ子特有の知恵かもしれません。
これも一般的に言えることですが、高校へ推薦で入学してきた生徒は大学入試でも推薦の枠を使いたがる傾向にあります。
概して推薦入試では中学時代も真面目だった生徒が入ってきます。
あまり派手さはないものの、コツコツとノートをとり、勉強を続けてきたというタイプです。
しかしここ一番の試験にはあまり強くない。
そういう生徒にとって、入試はかなりのプレッシャーです。
何万人という受験生が一度に受験するような光景に出くわしたこともありません。
そういう生徒にとって、推薦入試は本当にありがたい試験なのです。
生徒が希望する大学はある程度決まっています。
一斉に校内に一覧表を張り出すと、かなりの人垣ができます。
今は写メする人が大半です。
○○大学の**学部何人、成績はA段階以上といった文字を必死に追います。
推薦ワクをくれる大学は毎年それほど変わりませんから、進路部の先生は神経を張り巡らせて毎日郵便物に目を通します。
有名な大学がワクを増やしたりしてくれると、実にありがたいのです。
それもこれも前年度の合格者の実績次第です。
一般入試で何人入ったのかという数字も大変貴重です。
都内の有名な大学はほぼA段階、B段階を要求してきます。
C段階でいいというところは、最初のうち誰も見向きをしません。
このあたりは弱肉強食の構図そのものです。
いよいよ学校では文化祭の準備に入らなくてはならないシーズンです。
もう成績の変更はありません。
全員が評定平均値という錦の御旗を持っています。
ここからは生徒同士の神経戦です。
誰がどこの大学に出すという噂があっという間に広がります。
互いの評定平均値をなぜか知っていたりします。
怖いですね。
生徒達の情報戦
教師が授業をしている間も、生徒達は情報戦に余念がありません。
もし自分だけが申し込み、他に誰もいなければ、そこでもう受験は終わり。
恰好のいいことを言ってる場合ではありません。
本音と本音のぶつかり合いです。
やがて推薦入試の締めきりの日がやってきます。
担任団は互いのクラスの誰がどこの大学へ応募したのか知りません。
生徒は直接進路部の担当者へ書類を出します。
担任が知っているのは、自分のクラスの生徒が相談に来た範囲の中だけです。
他のクラスの情報をなまじ知っていると、アドバイスができなくなってしまうからです。
生徒同士はかなりこの1週間が長く感じるだろうと思います。
後半になると、誰がどこに出すのかという情報をお互いに探り出します。
というのも、一度出したら変更がきかないからです。
決定したら、必ず出願しなければなりません。
途中でやめることはできないのです。
それだけきちんとした決断を要求します。
もちろん、親の承諾書も取り付けます。
判定会議
当日、その場で示される内部資料には、その年の推薦入学を希望する生徒達の全貌が載ります。
評定平均値はもちろんのこと、過去の欠席、委員会、クラブ、生徒会の活動などなど…。
生徒の実像を示すものといえます。
同じ大学の同じ学部を希望した場合、最初に見るのはもちろん成績です。
0.1でも違えば、それは全く違うものとみなされます。
ここでの差はある意味、一生の差かもしれません。
誰でもが知っている有名な大学には生徒の希望が殺到します。
ひとたび選ばれると、その時点で生徒の入学先が決まるのです。
次の年の2月に受験して届きそうにないかもしれない入試に、この瞬間決まるのです。
何度この会議に臨んでも、その責任の重さをひしひしと感じる瞬間です。
しかし問題はそう単純ではありません。
当然、同じ大学、学部でバッティングするケースがあります。
それもかなりの数の生徒が希望していたりします。
その場合ももちろん成績が第1の判断基準です。
このあたりになってくると、限りなく5.0に近い生徒の争いです。
4.9と4.8は意味が全く違います。
あとで説明責任を負うため、教員もはっきりとした線引きがほしいのです。
3年間で5.0に近い成績をとる生徒は、誰の目から見ても真面目な頑張り屋が多いです。
成績が全く同じ時はどうするか。
さらにこまかく成績を小数点の2位までとったり、英数国の3教科、理社を加えた5教科などとそのワクを広げていきます。
欠席も当然みます。
しかし、こういうタイプの生徒は無遅刻無欠席が多いのです。
反対に有名大学なのに、たまたま誰も申し込まなかったというケースもあります。
なぜ誰もいないのかと言っても、事実なんだから仕方がありません。
この生徒がここに出していれば、すぐに決まったのにといってもあとの祭り。
こういうケースもないわけではありません。
しかしだいたい生徒が希望する大学は1次選考でほぼ埋まります。
その日の夜、担任の仕事は生徒の家に電話をすることです。
合格おめでとうと呟くと、本人の興奮した声と、家族の声が賑やかに聞こえたりします。
もちろん、その反対もあります。
実にさばさばしている生徒がいるかと思えば、ほんとにしょんぼりお通夜みたいな時もあります。
また次の試験を頑張ろうなと言って切ります。
結構な数がいますので、この仕事もつらいです。
翌日にはさっそく第2次選考の表が掲示されます。
今度は期間も短いです。
生徒はここがあいてたのかと言って、絶句します。
これなら出しておけばよかったよという声も…。
希望する生徒はすぐに担任と面談です。
もう必死です。
かなり悩む生徒も出てきます。
学部は違っても、その大学ならば入りたいという希望者は当然います。
この後、3次、4次とやりますが、なかなか埋まりません。
残りのワクは詫び状とともに、大学へ全部お返します。
他の高校だったら、こんなことにはならないだろうけれど…。
教員はあちこちの高校を異動していますから、他の学校の様子もよく知っています。
この後、担任団は面接と小論文の試験のために、また時間をとることになるのです。
残りの生徒は総合型、一般推薦を目指します。
これでもまだ2月の試験よりは決まるのがはやいのです。
ぼくが高校生の頃と入試の風景は全くかわりました。
推薦入試の功罪はよく語られます。
本当のところどうなんでしょう。
企業は就活でも一般入試で合格した学生の方を高く評価するという声も聞きます。
それだけ修羅場をくぐってきたということなんでしょうか。
ふんばりがきくというのが一般入試で合格した学生に対する社会の声です。
推薦合格組にはどこかひ弱な一面があるのかもしれません。
それにしてもどうしたら高い内申点がとれるのか。
総合型入試、一般推薦についてもいろいろと書きたいことがあります。
その話は次の機会に書かせていただくことにしましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。