2つの視点
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は非常に大切な視点のわりに、あまり声高に語られないヒミツの領域を少し覗いてみます。
あなたが受験する高校や大学が、どのような学生を欲しがっているかに直結するテーマでもあるのです。
しかしこの内容を、あまり大きくアピールするということはありません。
一緒に少し考えてみましょう。
学問というのは、元々それまであった考え方から少しでも先に伸びていこうとするものです。
新しい学説や、論点を示し、従来の意見からほんのわずかでも先へ出ようとします。
新発見や新学説などというのは、まさに学問の持つ醍醐味そのものといってもいいでしょう。
自然科学の世界では、日々新しい物質が開発され、それが次の時代を形作っていくのです。
昨日までの考え方は、その瞬間からもう古くなります。
しかしこの傾向は、自然科学だけに限定されるものではありません。
社会科学や人文科学の分野でも、新しい考え方が、日々研究されています。
そういう意味からいえば、学問というのは、本質的に「革新的」なものなのです。
いつまでも同じところに佇み、慎重な姿勢だけをとっていたのでは、進歩しません。
もちろん、論理的な整合性を求め、秩序の維持に励むという学問領域もあるでしょう。
しかしそれだけが目的ではないはずです。
過去にこだわらず、挑戦する姿勢を取り続け、少しでも新しい考えがあれば、それに執着して創造的な考えを膨らませる。
これが学問研究者の基本的なスタンスなのです。
だとしたら、あなたの小論文が保守的な内容なのか、革新的な内容なのかの差は、予想しているより、評価に大きく左右される可能性があります。
学問の本質は革新的
それではつねに革新的な論文の書き方が好ましいのでしょうか。
実はここが1番厄介な点です。
その学校がどのような学生を欲しがっているのかということが、大きく評価に反映してくるからです。
つまり相手をみないで、がむしゃらに走っても、よい評価は得られません。
進みたい学問分野の内容にも大きく左右されます。
一般的に理工学系の研究開発を基調にしている学部の場合は、圧倒的に革新的な書き方が好まれます。
この分野は日々変化していますからね。
薬学や、国際情報関係学なども、相手の変化をつねに明確に見て取るという使命から始まります。
国際的であるということは、自分が変化する以上に、相手の変化にどう対応すればいいのかという柔らかさを要求されるからです。
自分は常にこうあるべきだなどという硬質な態度では、評価されません。
むしろ柔らかな対応力が必要なのです。
バイオの世界なども同じですね。
新しい薬の開発は、そのまま収益にも直結します。
今回の世界的なコロナ蔓延で、新しい薬の開発方法が大きくとり上げられました。
従来から研究されてきた方法に、大きなスポットライトがあたったのです。
メッセンジャーRNA(mRNA)という遺伝物質を利用したワクチン技術がなければ短期間でのワクチン開発は不可能だったと言われています。
つまり攻撃的な姿勢が、薬学の開発には重要だということなのです。
大学としてはそういう態度をもった生徒を、入学させたいと思うに違いありません。
保守的と言われてきた分野も
それに対して、保守的だといわれてきた分野はどうでしょうか。
過去の情報や原理を大きく踏み外さないという基本を、守るべきだと考えられてきた学問です。
例えば法律の世界を考えてみましょう。
現在では難問が山積していますね。
簡単に解決しないテーマばかりです。
死刑の是非。
LGBTの人々の結婚や民法に関わる諸権利の判断。
医学の分野では、生命の倫理そのものに関する内容です。
ガンの告知や、死の判定、臓器移植など、少し前までだったら神の領域に属することばかりなのです。
それをどう理解し、解決していくのか。
どちらかといえば、保守的な学問だと信じていた人たちも、今世紀に入り、ますます問題が複雑化しているのを感じているはずです。
従来と同じ考えで、学問を扱うことができなくなりました。
さて最も保守的だと考えられる学部の1つが、文学部でしょうね。
論理的な能力も必要とされますが、どちらかといえば感性に委ねるという志向が強いようです。
この場合は、むしろその受験生がどのような感覚の持ち主であるのか、ということを知るためのテーマが出やすいようようです。
先例を嫌うというより、むしろ古典の世界の中に浸りたいという人が、大半なのかもしれません。
慎重であるという態度も同時に好まれます。
論理的な整合性をきちんと把握できる能力が、保守的な分野の学問には大切なのです。
しかしそれでも現在は、学際的な領域が圧倒的に増えました。
どこまでが保守的で、革新的であるのかということ、一言でいうのは難しいのです。
志望大学が決まったら、過去問などにあたり、どの分野のテーマが良く取り上げられるのかということを調べて下さい。
どちらの視点が、より評価されやすいのかということも同時にチェックしておきましょう。
評価には2面性がある
たとえば、論理的な文章を評価する採点者があるとします。
それを高得点とするということです。
しかしその反対の立場にいる人からみたらどうみえるでしょうか。
ただの理屈ばかりで退屈な文章に見えてしまうかもしれません。
また、グラフや図表を正確に読み取れるということは、大きなアドバンテージです。
しかし一方では、文字情報と重ね合わせないで、数字だけを先行させるタイプの文章は高く評価できないという採点者もいます。
基本的にそれぞれの採点者の評価基準によって採点されるのです。
事前に細かく打ち合わせをしても、そこに誤差が生まれることは否定できません。
そうなってくると、どうしたら最も高い評価を得られるのかがわかりませんね。
正直言ってこれこそが、小論文の最も難しい領域なのです。
大学入学共通テストの施行にあたって、国語の解答を記号ではなく、書かせるタイプの問題にするという意見が多く出ました。
しかし公平な採点ができないということで、見送りになったのは承知の通りです。
大学入学テストは、次第に受験する生徒の数が減りつつあります。
かなり内容が難しくなり、国立志望の生徒は2次試験とあわせて、違うタイプの試験を受験しなければなりません。
難渋しているのが現状なのです。
小論文も複雑な構造をもった試験だ、ということがわかっていただけたでしょうか。
受験生が集まらず、推薦入試にシフトしている大学では、明らかに作文的要素の強い小論文という名の「作文」を書かせている大学もあります。
あなたが受験する学校の過去問を冷静に判断してください。
どのレベルのどのテーマが最もよく出るのか。
難易度は、どれくらいなのか。
この2つをきちんと掴まえておかないと、今後の勉強の方針がたてられません。
冷静になることが大切です。
今回はあまり声高に教えてはくれない、大切な話をしました。
もう1度、よく読み直してください。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。