共存は可能か
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は「AI」に関する問題を考えます。
まさに今日的な課題ですね。
このテーマとは必ず一度は正対しておく必要があります。
高校、大学を通じて、どこで出題されてもおかしくはない喫緊の内容です。
常識的な解答ではなく、あなたの実感をともなった、経験にのっとった文章が評価を得るのです。
AIと人間を対決させるという、以前の形の論理は既に終わっています。
これからはそれぞれが得意分野を分けあって共存していく以外に道はありません。
現実はそこまで来ています。
それくらい生成AIの進化は進んでいるのです。
彼らが得意な分野は何か。
➀数値化されていることからの推論
②厳格なルールにおける判定
③入力したデータに基づいた単純作業
などです。
つまりある量の数字が積みかさねられた時、圧倒的な実力を発揮します。
そのために必要なのが、いわゆるビッグデータです。
可能な限りのデータを収集し、それを分析することで解答を引き出します。
しかしそれが正解なのかどうかはすぐにわからないのです。
最終的には人間が総合的に吟味し、判断しなくてはなりません。
これがAIの弱点だともいえます。
誤った解答を出してもそのことを彼らは認識していないのです。
では反対に苦手なことは何でしょうか。
➀相手の気持ちを汲み取る
②少ないデータでの推論
③合理的でない判断を下すこと
と言われています。
グライダー人間のかたち
AIはビッグデータのない場面での感覚的判断が極端に弱いのです。
今までの常識では考えられないスピードで解答をはじき出すので、誰もが正解かもしれないとつい考えてしまいがちです。
しかしそこで立ち止まれるのが、人間の強みかもしれません。
真実と虚偽が混ざり合っている中から、最適解を選び出すという作業はやはり、人間にふさわしいといえます。
昨年、町田高校でこのテーマにピッタリの問題が出題されました。
外山滋比古『思考の整理学』がそれです。
彼は「グライダー人間」という言葉を、著書の中でかなり使っています。
この表現はいつも受動的に知識を得る人のことをさします。
自分から積極的に発信したり、考えたりすることの苦手なタイプの人間のことです。
今まで、日本の教育現場が、率先して作り上げてきたパターンの人たちです。
企業戦士とでもいったらいいのでしょうか。
しかし今日、この方法の限界がはっきり見えてきたというのが、この問題の論旨なのです。
内容をチェックしてみましよう。
課題文
機械と人間の競争は、新しい機械の出現によって「機械的な」性格をあらわにする人間の負けに終わるのである。
コンピュータは、われわれの頭がかなりコンピュータ的であったことを思い知らせた。
しかも、人間の方がコンピュータよりもはるかに、能力が劣っているときている。
これでは、社会的に自然淘汰の法則を受けないではいられない。
革命を「機械的」人間は早晩、コンピュータに席を明け渡さなくてはならなくなる。
産業革命を考えても、この予想はまずひっくりかえることはあるまい。
これまでの学校教育は、記憶と再生を中心とした知的訓練を行ってきた。
コンピュータがなかったからこそ、コンピュータ的人間が社会で有用であった。
記憶と再生がほとんど教育のすべてであるかのようになっているのを、おかしいと言う人はまれであった。
コンピュータの普及が始まっている現在においては、この教育観は根本から検討されなくてはならないはずである。
学校だけの問題ではない。
ひとりひとりの頭の働きをどう考えるか。
思考とは何か。
「機械的」「人間的」概念の再規定など、重要な課題がいくらでもある。(中略)
いちはやくコンピュータの普及を見たアメリカで、創造性の開発がやかましく言われ出したのは偶然ではない。
人間が、真に人間らしくあるためには、機械の手の出ない、あるいは、出しにくいことができるようでなくてはならない。
創造性こそ、そのもっとも大きなものである。
しかしこれまでグライダー訓練を専門にしてきた学校に、かけ声だけで、飛行機をこしらえられるようになるわけがない。
はたして創造性が教えられるものかどうかすら疑問である。
ただ、これからの人間は、機械やコンピュータのできない仕事をどれくらいよくできるかによって、社会的有用性に違いが出てくることははっきりしている
どういうことが機械にはできないのか。
それを見極めるのには多少の時間を要する。
創造性といった抽象的な概念をふりまわすだけではしかたがない。(中略)
人間らしく生きていくことは、人間にしかできない、という点で、すぐれて創造的、独創的である。
コンピュータがあらわれて、これからの人間はどう変化していくであろうか。
それを洞察するのは人間でなくてはできない。
これこそ、まさに創造的思考である。
設問
この課題文には次のような設問があります。
これからの時代にコンピュータやAIなどの機械と人間が、互いの強みや特徴を生かして共存するために、大切なことは何ですか。
またそれをふまえて、学校生活をどのように送りたいか、活動する場面などを想定して400以内で書きなさい。
これが全てです。
あなたならどのようにまとめますか。
ぜひチャレンジしてみてください。
キーワードは「共存」です。
AIと人間のどちらが優れているのか、という競争をしても意味を持ちません。
むしろ両者の共存のために必要なものは何かという問いです。
ズバリ、相互理解と協力ではないでしょうか。
コンピュータは膨大なデータを処理し、効率的な作業を行う一方で、人間は創造性や感情、倫理観などを持っています。
この両者がそれぞれの強みを生かし合うことで、より良い社会を築くことができると考えるべきなのです。
その点を最初に強調するのが大切なポイントですね。
そのためにはどうしても、コミュニケーション能力が必須です。
人間同士だけでなく、AIやデジタルツールに対する理解も大切です。
倫理的な問題に対処するための判断力も求められます。
ではそれらを手にいれるため、入学後にどうしたらいいのか。
このテーマをきちんとまとめておきましょう。
そうでないと、評価は確実に下がります。
ここで設問を何度も読んでください。
あなたの学校生活での活動の場面をイメージして書けとあります。
もちろん、入学後の基本は学習活動です。
クラブ活動や委員会活動、校外でのボランティアも考えられます。
その中で何があなたにできるのかを考えてみてください。
何ができるのか
例えば、AIを活用した環境問題の解決に取り組むプロジェクトを立ち上げるというのはどうでしょうか。
委員会では無理だとしたら、クラス単位や同好会レベルなどで活動することも可能です。
文化祭などでの研究発表をそのための機会にすることも考えられます。
「SDGs」に対する研究はどうでしょうか。
生成AIは膨大なデータを持っています。
その一部を借りることを考えてみるのも1つの方向です。
地球温暖化、飢餓などのテーマをひとつ取り上げただけで、世界への関心が一気にひろがるはずです。
ただしここで注意しなければならないのは、AIの作り上げる問題意識をそのまま鵜呑みにしてはならないということです。
自分たちには何ができて何ができないのかを、切り分ける作業が必要になります。
そのための議論をプロジェクトの中ですすめましょう。
それが共存への足掛かりになります。
データを公開するだけでは新鮮味がありません。
論点の内側に入っていき、自分たちの考えを深めることです。
それができたかどうかで、自己評価をするというまとめ方には意味があります。
その他にもあなたの視点で、クリエイティブなアイデアを提案し、機械のデータ分析能力を借りて実行に移すという方法も可能です。
あるいは情報科の授業でプログラミングを学んだら、そこから新しいアプリを開発することも考えてみてください。。
さらに、ボランティア活動とAIの接点を探し、人々の生活をより良くする方法を探ってみる。
機械と人間が協力する未来を見据えた活動を通じて、あなた自身の成長を促進し、社会に貢献できる人間になるためのやり方をぜひ探求してください。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。