生成AIとの対決
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は最近の入試でよくとりあげられる総合型選抜について考えてみましょう。
以前はAO入試と呼ばれていました。
年内入試という言葉もよく耳にするようになりましたね。
少子化の影響で、大学側も以前とは明らかに違う方向を向き始めています。
高校でも「探求」型の授業が脚光を浴びているのです。
記憶中心の受験勉強だけで、試験をする時代ではなくなっています。
大学側も1つのテーマに対して、独自の視点から探究活動を続ける生徒を欲しがっているのです。
総合型選抜は、探求の論文やレポート提出、試験場で独自に課す小論文、さらに面接などで構成されています。
多くのファクターを取り入れながら、優秀な地頭の学生を選ぼうとしています。
そのために高校側も、新たな取り組みを模索しているのが、現状なのです。
この変化はどこから来たのか。
少子化は当然のこととして、AIの普及がその背景にあります。
誰もがビッグデータと直接、正対できる時代になりました。
PCやスマホを手にすれば、あふれる情報に接することができるのです。
記憶力だけに頼る必要はなくなったといっていいでしょう。
手に入れた情報から、何を取捨選択するのか。
そのためのノウハウを持った人間が、次の時代をリードするのです。
自己表現のための文章力も、当然必要になりますね。
その時、目の前に立ちはだかるのが、まさに生成AIそのものなのです。
入試で出題される小論文などは、明らかに生成AIと勝負する時代に入りました。
ChatGPTの威力
400~800程度の小論文なら、ChatGPTはわずか数分で書き上げてしまいます。
驚くべき速さです。
あなたは試したことがありますか。
まだやったことがないという人は、すぐこの記事を読んだ後、試みてください。
そのスピード感に驚きを覚えるはずです。
ただし、これらの文章が確実に合格を約束できるレベルになっているかどうかは、全く別の話です。
あくまでも、通常のレベルの小論文の場合だと考えてください。
現在の生成AIは長い間、添削をしてきた立場から言わせてもらえば、いかにもそれらしいことが書いてあるという段階にとどまっています。
しかし侮ってはいけません。
すぐに人間に追いついてくるでしょう。
現在、ニュースをAIが読む段階に入っています。
以前ならば、アクセントに違和感がありました。
現在はプロのアナウンサーと比べても遜色がありません。
動画の生成などや、音声の合成も得意技です。
数分の間に、その人物と同じ声で偽のインタビューを作ることなど、なんでもありません。
ただし小論文に関していえば、難関校の受験を突破できるレベルにはいまだに達していません。
今年の入試問題を自分でチェックしてみてください。
まだChatGPTは追いついていないのです。
しかしすぐに近くまでやってくると思われます。
彼らは多くのデータを、短時間でインプットできるからです。
総合型選抜の問題
最近、行われている総合型選抜にともなう入試は、受験生の資質を深いところで問うスタンスの問題が多いです。
いわゆる標準的なテーマに対応しているレベルの生成AIでは、到底カバーしきれない内容なのです。
特に受験生の資質を問う問題の場合、採点者はより個人的な内容を把握している必要があります。
さすがにこれはデータをインプットしていない段階の生成AIにはできません。
個人情報をきちんと認識していなければとても歯が立たない問題が出ると考えてください。
たとえば、あなたが提出した探求型論文の中で、不十分だったところは何か。
他と比べて最も優れていた点は何か。
今後、改良できる範囲の探求課題は何か、といったような個別的な問題をその場で書かせるのです。
1時間半くらいかけて、3つのテーマを800字ずつ纏めさせます。
さすがに、ChatGPTにこの作業はできません。
もちろん、それらしく纏めることは可能です。
しかし詳細は、探求型の論文を出した生徒しか知らない情報ばかりです。
ここで、「なりすまし」を排除する役割も果たしているのです。
第三者が受験生にかわって、エントリーシートの内容を書いたにせよ、この段階と、面接ではじくことができます。
個人情報を少しだけスパイスとして振りかけた程度では、いい評価が出ないのは明らかです。
あなたの持っている資質を、大学での学びにどう具体的に応用できるのか。
その能力を社会に出た後、どのような行動に結びつけるのか。
そこまで詳しく書き上げなければなりません。
ここまで読んでみて、いかにこの試験が大変なものかは、わかっていただけたでしょうか。
試験官も膨大な時間をとって、1人1人の受験生の資質を見抜かなければいけません。
大変な労力が必要です。
多人数を相手の試験ではとてもできません。
そのため、評定平均などのバリアを設定することになります。
それでも大学にとって実施する価値があるのです。
少子化社会において、大学の学びの質を維持するためには、真に実力のある学生をとらなければなりません。
生成AIにも不得意なことが
ChatGPTは不死身ではありません。
いくら生成AIだからといって、個人的な資質に関する分野の内容を瞬時に完成させることはできないのです。
AIの命はインプットされた情報の量です。
データがあればあるほど、彼らの威力は増します。
逆に言えばそのための情報が何もインプットされていなければ、全く無力です。
いかにもGPTチャットで書けそうな内容は、採点者もよく知っています。
SDGsに関する一般論などは、もっとも得意な分野です。
ただし、あくまでも一般論の範疇に限ります。
新しいタイプの総合型入試を、カバーしきれているとは言えません。
「新思考型入試」と呼ばれる入学試験には、それだけの矜持がついてまわっています。
エントリーシートを正確にチェックできる能力を、生成AIは持っていません。
どうしてもそこに示されているキーワードの周囲をめぐるのが精一杯です。
その結果、どこかで読んだような平均的な記述に留まってしまいがちです。
そうした形で、いくつもの関門を設け、受験生本人がそのテーマにどこまでコミットしたのかを調べていくのです。
では、内容のすぐれた小論文とはどのようなものなのでしょうか。
生成AIで書かれた文章をいくつか読んでみてください。
なるほど、そこには多くの表現が盛り込まれています。
しかし、どこかで読んだような、いわゆる教科書的な文章が目立つのも事実です
悪く言えば総花的で八方美人型の内容になりがちです。
あちらにもこちらにもいい顔をしすぎるのです。
受験生がねらうべきなのはそこではありません。
あなたはファシリテーターという表現を聞いたことがありますか。
参加者の感情面に配慮し、「本音で議論ができない」、「発言者が偏る」といった事態を防ぐ役目を持った人のことです。
全体のバランスをつねに気遣いながら、全体の会議をまとめていく役割の人です。
その上で、参加者を合意形成へと導くことが、ファシリテーターの役割なのです。
入試では、小論文を書くときに、ついファシリテートをしすぎてしまう傾向があります。
全体のバランスを考え、賛否についても、どの立場に立てば、採点者によく思われるかを考えてしまうのです。
これからは、この習慣を捨てましょう。
自分の論点を愚直に進むのです。
それが生成AIの最も怖れる、人間の書いた文章になることを覚えておいてください。
今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。