世界標準
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師のすい喬です。
今回は早期退職について考えます。
つい最近、衝撃的なニュースが続けざまに流れ出ました。
その1つがパナソニックが9月末に国内で実施する早期退職の話です。
パナソニックは旧松下電器です。
ナショナルのブランドで、日本の電機メーカーの旗頭でした。
古くは電球の二股ソケットに始まり、伝説が次々と打ち立てられました。
義理と人情を重んじ、首切りをしない会社で有名だったのです。
創業者、松下幸之助を慕って多くの従業員が活躍しました。
そこからナショナルの電気製品なら間違いがないという圧倒的な信頼が生まれたのです。
事業部制を取り、各パートがそれぞれに独自の採算システムをとりました。
そのパナソニックが早期退職者を募り、1000人を超える規模に上ったことが24日、分かったのです。
勤続10年以上の社員を対象に、退職金を上乗せして支給するとか。
収益力を向上させるためだとメディアは伝えています。
人材の新陳代謝を促して組織の活性化につなげる狙いなのでしょう。
新しい電気製品を手に入れて嬉しかった時代はとうに過去のものです。
現在は壊れたから買い替えるという意味合いが強いです。
かつては多くの系列店に商品を流せば売れました。
今や、電気製品の小売店を探すのは大変なことです。
大手量販店や、ネット販売でさばかない限り売れないのです。
環境が激変してしまいました。
退職は9月30日付だそうです。
来年4月の持ち株会社制移行を見据え、来月1日に予定する大規模な組織改革の一環です。
パナソニックの6月末時点の連結従業員数は世界で約24万人。
国内は10万人前後だそうです。
1000人は多いのか少ないのか。
退職者の内情についても想像する以外に方法がありません。
ホンダも2000人
ホンダが2021年度から始めた早期退職者を優遇する制度に2000人を超える社員が応募したと先日発表しました。
55歳以上64歳未満が対象です。
募集人数の目標は特に設けていなかったそうです。
創業者本田宗一郎に対する敬愛には確固たるものがありました。
オヤジと慕われた本田が存命していた頃とは、環境が激変してしまっています。
脱炭素化の流れを受け、電気自動車(EV)への移行が急速に進んでいるのです。
次世代の車に集中しないと生き残れません。
簡単にいえば若返りです。
世代交代を進める必要があります。
世界のエネルギー事情は変質しています。
石油に頼る時代はやがて過去のものになるに違いありません。
応募者には退職金を上乗せして支給し、再就職や起業も支援するそうです。
22年度以降はさらに55歳以上59歳未満を対象とし、ますます人材を若返らせる予定のようです。
サントリーの衝撃
そこへもってきてつい数日前、サントリーの新浪剛史社長が45歳定年制をぶち上げました。
55歳でも驚いていたのに、45歳にした真意はどこにあるのでしょうか。
経済同友会の夏季セミナーでの発言でした。
「45歳」という数字が一人歩きをした印象は否めません。
翌日に新浪社長はあわてて「クビ切りをするという意味ではない」と釈明しました。
しかし既に時遅しでしたね。
どういうつもりでこのような発言をしたのでしょうか。
サントリーはいつも時代の先端を走ってきたという自負を持っている会社です。
ぼく自身も以前在籍していた会社の頃、会議に参加させてもらったことがあります。
素直にいい会社だと感じました。
進取の気性に溢れていたのです。
45歳を過ぎた社員を強制的に解雇することは法律に抵触します。
それでなくても年金との関連で再雇用のシステムが構築されている段階です。
現在の65歳支給開始がもう少し先に延びるという話題すら出ているのです。
定年後の2000万円問題もまだ尾を引いています。
そこへもってきての45歳は衝撃的でした。
最近はそれでなくても結婚年齢が遅くなっています。
45歳といえば、これから子供の教育費がかかる時期です。
さらに家のローンなども重なったら、退職金を割り増ししてもらったところで、足りるはずがありません。
「定年を45歳にすれば、30代、20代でみんな勉強するんですよ。自分の人生を自分で考えるようになる」という発言には不安を覚えた人も多いのではないでしょうか。
以前なら終身雇用があたりまえで、誰もが「うちの会社」という言い方をしました。
しかし今は世界標準の雇用形態をとる会社も増えつつあります。
年間の賃金を契約によって決めるということになると、労働の形態も当然変化を余儀なくされます。
新浪社長の発言の狙いは、年齢以前に会社に頼るなというところに真意があるようです。
若いうちからスキルを磨き、学び直しをし続けろということなのでしょう。
狙いはズバリ人材の流動化です。
中高年の再雇用
かなり前に『償却済み社員、頑張る』という安土敏の小説を読みました。
筆者はスーパーサミットの元社長です。
社畜という言葉を生み出した人でもあります。
この小説は大手商社を部長で定年した男が、途中でやめた人間達と偶然、出会うというところから始まります。
ある時期から企業は「財産」だったはずの「人材」を、どんどん捨て始めました。
何十年もかけて育てたはずの「人材」を、どうして惜しげもなく捨ててしまうのか。
人間は時間の経過とともに経験を積み、価値が上がっていくものであるという前提が変わってしまったのです。
新しい知識や考え方を容易に受け付けなくなったのでしょうか。
古いやり方で生き抜こうとするあまり、頑固になってしまう側面が強いのかもしれません。
人間も建物や設備と同じように減価償却の対象になったと考えれば、確かに話は分かりやすいです。
この物語は、ある大企業が捨ててしまった社員たちがその企業の外の世界で頑張って活躍していくという話です。
総菜屋の社長として活躍している男、自動車学校で指導員をしている女性、またそこの営業社員。
それぞれが自分の柄にあった仕事をし、生き生きと生活しています。
以前の商社にいた時とは全く違う横顔をみせるのです。
減価償却とはいえ、簿価は残ります。
どんなものにでも10%の価値は残るのです。
まさに償却済みの社員であっても、そこにはまだまだ価値があるわけです。
『クビ論』などという本もありました。
年収300万円で楽しく生きていくための本が売れる時代です。
だからといって慌てて自分の生き方を変えてしまう必要はないでしょう。
あくまでも柔らかくしなやかに生きる方法を学び続けましょう。
時代に急いで流される必要はないのです。
人間の存在は減価償却にも耐えらるものと信じたいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。