便利な言い回しは危険
みなさん、こんにちは。
小論文添削歴20年の元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は表現の問題について考えます。
ニュースを聞いていると「~のようなもの」という表現がよく出てきますね。
特にNHKのニュースはすごいです。
「バールのようなもの」とか「ナイフのようなもの」というのは「バール」「ナイフ」とどこが違うのかなとよく思います。
曖昧にぼかしておけば、もしそうでなかった時に釈明ができますからね。
便利な言い回しなんでしょう。
しかしこの「~のようなもの」はいただけません。
これと似たようなことが小論文にもたくさんあります。
ほとんど自分では気づかないので、ある意味タチが悪いのです。
なぜ気がつかないのか。
便利だからです。
つい使ってしまう。
より正確な表現を使おうとすると、実は苦しいのです。
文を書いているといつも完全にフィットする言葉がでてくるとは限りません。
そういう時に、つい「~ということ」「~というもの」という表現を使ってしまいがちです。
この言葉を入れるとスッキリまとまるのです。
表現は悪いですが悪魔の言葉です。
しかし全く使わないで文を書いてみろと言われると、急に沈黙せざるをえません。
つい、苦しいので使ってしまうのです。
長く文章を書いていると、自分の書き癖と戦わなくてはならない瞬間が出てきます。
どうしても同じような表現を重ねて使ってしまうのです。
他人に指摘されてはじめて知るというワケです。
「~というもの」はNG
「言葉というものは」などという書き出しは、小論文にピッタリなのです。
いかにも大所高所にたってものを論じるのにふさわしいと思いませんか。
それだけについ使ってしまいがちです。
先生が学生に講義をしているみたいで、小論文にピッタリですね。
自分ではセーブしているつもりでもつい使ってしまう。
そこが悪魔の悪魔たる所以です。
特に本番の試験の場合は、あとで見直す時間が十分にありません。
パソコンなどで書くのと違って、そこだけをなおすということができないのです。
それだけにかなり神経を使って文を書く必要があります。
具体例や例示を書いている時にはあまり出てくる表現ではありません。
むしろ一般論としてまとめにかかった時に出没するのです。
小論文を書きながら、いつも「もの」と「こと」が出てきそうになったら、ほかの表現で言い換えられないかを考えてみてください。
やってみるとわかりますが、結構苦しいです。
基本的に論文というのは断定表現に向いているのです。
だから「~というもの」「~ということ」との相性はあまりよくありません。
むしろ文意を曖昧にするだけです。
できるだけ使わないという意志を強く持ってください。
書いている時は夢中ですから、どんな言葉を多く使っているかまでは気が回りません。
それでも一種の慣れが必要です。
たとえば今の文章で「気が回らないものです」と書こうとしたとしましょう。
今回はそこから「もの」を取って「気が回りません」としました。
もちろん、そんなことには誰も気づきませんよね。
スキルを学ぶ
当然なんです。
どちらの文章でもおかしくはないからです。
しかしこれが繰り返されると、次第に感覚が麻痺していきます。
そして「バールのようなもの」という類いの曖昧模糊とした表現を量産するのです。
小論文を書くには技術が必要なのかと訊かれたら、まさにその通りですと答えてもいいでしょう。
いい文はこのような細かなスキルに支えられてできあがっているのです。
もちろん内容が1番大切です。
コンテンツがしっかりしていなければ、屋台骨がグラグラしていて使いものになりません。
論旨のまとまらない論文に高評価を与えるなどという離れ業はありません。
まず内容です。
きちんとした意見の表明と解決のための方法論の提示ですね。
これは絶対に必要です。
ただしそれだけではダメなのです。
それをどう見せるかという表現も同じくらい大切です。
生徒の文章を添削していると、とにかく歯切れの悪いものが多いです。
論じている内容を類推しながら読んでいけば、なんとか意味が通じます。
しかしそれでは合格答案になりません。
1度でスッと腹におさまる文章が必要です。
同じ内容でも、読みやすく理解しやすい文の方が、ずっと評価が高くなるのです。
ある意味では当たり前の話ですね。
きっとこういうつもりで書いたのだろうなどと採点者が類推しながら読む姿を想像してください。
いい文章であるワケがありません。
読後感の爽やかな文
すぐれた文章は読後感が爽やかなのです。
この感覚は長く採点をしている人に共通したものです。
大げさにいえば、青い空がどこまで続いている時の気分の良さです。
どんよりとした雲に覆われた空とは全く違います。
理由の1つは内容のキレの良さ。
もう1つは言葉の使い方のうまさです。
言いたいことがストレートに表現されている文は理解もしやすいです。
根拠や反論がきちんと提出されている文章。
文体が理解しやすい構成になっている文章。
ストーリーの展開を追うのが楽であればあるほど、読みやすいのです。
採点者にとっては好感の持てる小論文が最も評価が高いのです。
その頂きを目指して頑張らなくてはなりません。
どうしたらそうなれるのか。
ひたすら練習をするしかありません。
いつも頭の隅にNGワードをインプットしておくのです。
この言葉はなるべく使わないようにしようと決めてください。
どうしても出てきそうになったら、何か他の適当な表現はないかを数秒考えるのです。
そうすれば必ずふさわしいフレーズがみつかるはずです。
それを集めておきましょう。
別の機会に使うのです。
あとは繰り返しです。
いつの間にか自分の文体になります。
そうなればもう大丈夫です。
自然に言葉が積み重なって、理解を深めてくれます。
習うより慣れろです。
そのためにはたくさん書かなくてはいけません。
それが勉強なのです。
頑張ってくださいね。
最後までお読みいただきありがとうございました。