最初の寄席
みなさん、こんにちは。
アマチュア落語家、すい喬です。
いつもはなかなかすぐにできそうもない厄介な噺ばかりを話題にしていて、ごめんなさい。
今回は誰にでもできる楽しい噺を特別に集めてみました。
芸は身を助けるといいます。
自分も楽しいし、聞いている人も楽しくなるというのは、悪くありません。
是非トライしてください。
江戸時代、最初に木戸銭をとって寄席を始めたのは、初代三笑亭可楽です。
元々は櫛職人でした。
噺好きが高じて、やがて本物の芸人に。
山椒は小粒でぴりりと辛いから高座名をつけたと言われています。
しゃれてますね。
寛政10年(1798)に江戸の下谷稲荷神社で寄席を開いたのが、最初です。
その頃、流行ったのが一分(いちぶ)線香即席噺。
これはお線香が一分(約3ミリ)になるまでの短い間に、落とし噺を即席で考えるというものです。
言ってみれば、テレビ番組「笑点」の先駆けみたいなものかもしれません。
歌舞伎はさすがに木戸銭が高くて、庶民にはなかなか手が届かなかったのです。
しかし、寄席ならば家の近くにもあるし、気軽に出かけられました。
照明も満足にない時代でしたが、ろうそくの明かりがあれば、それで十分でした。
そんな中で小咄が最初にでき、やがてそれらを幾つも足して、長い噺になっていったものと思われます。
いくつかご紹介しましょうね。
本当に短い小咄
1
一番短い小咄なんてえのがございまして、天国の小咄といいます。
天国の小咄「あのよ~」
2
「隣の空き地に囲いができたね」
「へえ~」
3
「おっかさん、パンツ破けた」
「またかい」
4
「芋屋のおばさん、年とったね」
「ああ、ふけた」
5
「天井がもるね」
「や~ね」
6
「ハトがなんか落としていったよ」
「ふ~ん」
7
「雷さまはこわいね」
「なるほど」
マクラに使われる小咄
8
男1「おおい、ねずみ取りにねずみがかかったよ、ええ、大きなねずみだ。」
男2「へぇ、そうかい、ど~れ、なんでぇ、ちっとも大きくねぇじゃあねぇか、こんなの、小せぇよ。」
男1「いいや、大きい。」
男2「小さい。」
男1「大きい。」
男2「小さい。」
男1「大きい。」
男2「小さい。」
なんてぇますと、中でねずみが、ちゅう。
9
2匹のヘビが、散歩に出かけました。
その途中、片方のヘビがもう片方のヘビに訊きました。
「オレたち、毒もってるの?」
もう片方のヘビが答えました。
「なんだい突然、もちろんさ。」
再び、片方のヘビが訊きました。
「オレたち、本当に毒もってるの?」
「ああ。オレたちゃ本当に毒もってるんだ。事実、オレたちは世界の中で一番の猛毒をもったヘビなんだぜ。 なんでまたそんなこと訊くんだい?」
「ああ、ちょっと舌を噛んじゃってさ。」
10
旦那「 おいおい!定吉や、定吉」
定吉「 ヘ~イ。なんです?旦那」
旦那「 おまえ、すまないが、チョイと郵便局へ行ってな」
定吉「 あっ。そうですか。わかりました。じゃ、行ってまいります」
旦那「 なんだなんだ あいつは。用も聞かずにとび出しちまった、しょうがないな、どうもあ~、もどって来たもどって来た」
定吉「 旦那、行ってまいりました」
旦那「 行ってまいりましたじゃない、えゝ? おまえ、何しに行ったんだ」
定吉「 へっ、郵便局行って来ましたけど、別に変わったことはございませんでした」
旦那「 なにを言ってるんだな、ど~も。あたしはね、この手紙を速達にして、出してきてもらいたかったんだよ」
定吉「 あ、そうですか。だったら早く言ってくださいよ。いま行ったついでがあったのに」
11
旦那「おおい、定、定吉、いるか、ここの廊下に釘が出てるよ、着物でも引っ掛けて、かぎざきでもすると、えらい損をしちまうから、あの、お隣りへ行って、かなづちを借りて来なさい。」
定吉「へ~い、いってきました。」
旦那「どうした。」
定吉「貸さないんです。」
旦那「どうして。」
定吉「お隣りへまいりますと、鉄の釘打つのか、竹の釘打つのかってぇますから、鉄の釘打ちますってぇと、鉄と鉄とかぶつかると、かなづちが減るから、もったいなくて、貸せないってんです。」
旦那「なんてぇしみったれな事を言うんだ、釘一本打ったからって、かなづちがどれくらい減るんだ、しみったれだな、あんな奴から借りるな、借りるな。じゃあしょうがない、うちのを出して使え。」
12
男1「あなたぁ、扇子一本あったら、何年使う。」
男2「自慢じゃありませんが、あたしは、扇子一本あったら、十年は使いますよ。」
男1「自慢しちゃあいけない。一本の扇子を十年なんてそりゃ使い方が荒い、乱暴だよ。」
男2「乱暴だって、一本のを十年使えば、こりゃ十分だと思うけれども、じゃあ、あなたは何年使うね。」
男1「あたしは、自分の代では使いきれません、あたしと同じようにやらせれば、孫の代までもたせますよ、あなた、十年ってどうやって使うの。」
男2「ま、いろいろ考えたんだけどもね、これ、いっぺんに広げれば、いっぺんに痛んじゃうから、まずこっち半分広げて、これで五年もたせるんだね、で、こっちが痛んできたら、もう半分の方を広げて、これで五年もたせて、しめて十年もたせるつもりではいるんですけど、貴方、孫の代まで使わせるって、どうやるんですか。」
男1「あたしは、あなたみたいに、半分広げるなんて、しみったれた事はしませんよ、あたしは、こう扇子をいっぱいに広げてね、顎の下へ持ってくる、で、よく考えてみれば、これを動かすから、痛むんだから、顔の方を動かす。」
これじゃ、風もなにもきやあしません。
13
昔は、随分変わった商売があったようで、耳の掃除をしたなんて商売がありまして…。
A「 おぅ!耳の掃除たのむよ」
B「 へィ、いらっしゃいまし。上、中、下とわかれておりまして」
A「 ほォ~、上ってのは?」
B「 これは耳掻きの先が金でできておりましてな、当たりが柔らかくなっております」
A「 じゃ~、中ってのは?」
B「 これは象牙でございまして…」
A「じゃあ、下は」
B「釘のあたまです」
14
浅草の観音様に泥棒が入りまして、この泥棒、昼間のうちに境内をすっかりと調べますと夜になって裏門から忍び込みました。
賽銭箱を叩き壊し、中のお金を集めて、これを風呂敷に入れて、そのまんま裏門から出りゃァ良かったんですが、ここが間抜けな泥棒で表門から堂々と出て行きました。
ご案内の通り観音様の入り口には、仁王様というのが門番をしておりまして泥棒を見逃すはずがございません。
「俺が門番をしているのに、何を考えてやんだ。ふてェ野郎だ。」ってんで、泥棒の襟首をむんずと掴むってェと目よりも高く差上げまして、下にドス~ンと叩き付けた。
で、泥棒が四つん這いになったところを、あの仁王様の何文あるかわからないという大きな足でもって背中を、グイッ、と踏みつけたからたまりません。
泥棒、下っぱらに力がはいる。
おもわず大きいのを一発、「ぶ~ッ!」
「くせェ者ォ~」
「へへへ。匂うか(仁王か)」
15
お月さま、お日さま、それに雷さまがそろいまして、一軒の旅籠に泊まりました。
あくる朝になりますってぇと…。
雷「おいおい、女中さん」
女中「はぁい、何でございます?」
雷「 俺の相棒はどうしたい?」
女中「 お月さまとお日さまでございますか?もうお発ちになりましたよ」
雷「 ふぅん。月日の経つのは早えもんだ」
女中「 ところで雷さまはいつ頃お発ちになります?」
雷「 うぅん、俺ァ雷だからな。もうひと眠りしてから、夕発ちにしよう」
掛け言葉
どうでしょうか。
落語というものを少しは面白いと感じてもらえたでしょうか。
このような噺がどんどんつながって伸びていくと、やがて15分くらいの落語になります。
よく落語家は右をみたり左を見たりしますね。
あれは違う登場人物だということをわかりやすく表現しています。
「上下を切る」といいます。
「かみしも」と読んでください。
いい加減に首を振っているように見えるかもしれませんが、どちらを向くかは決まっています。
目下や相手より手前にいる人(外から来た人)は下(向かって右)つまり自分から見たら左を見ます。
この基本を間違えると、今話しているのが誰なのかがよくわかりません。
どうしても最初のうちは戸惑うものです。
しかししばらくやっていると、自然と顔がそちらを向くようになります。
落語は言葉の芸ですから、オチに向かって突き進みます。
一番自然なのは「シャレ」で落とすやり方です。
いわゆる掛け言葉です。
難しくいえば同音異義語です。
さきほどあげた小咄の中では14番の噺が一番わかりやすいでしょう。
「くせもの」と「くせ~もの」、「臭うか」と「仁王か」の掛け言葉になっています。
落語には大変このパターンのオチが多いのです。
地口落ちと呼んでいます。
しかしやや安易な落とし方で、作りやすいので嫌う人もいます。
ぼくの好きな噺の中では「道灌」「天災」「たがや」などに見られます。
重い噺では「鰍沢」(かじかざわ)などの噺にも使われています。
1度大きい声を出して家でやってみてください。
楽しいですよ。
どれでもかまいません。
1つだけでも自分のレパートリーに入れておくと、本当に芸は身を助けます。
意外性が落語の身上です。
あの人がこんなことをやるんだというのが一番の落ちかもしれません。
コピペして、覚えてくださいね。
最後までお読みいただきありがとうございました。