テーマ型の問題
みなさん、こんにちは。
小論文添削歴20年の元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は課題文型でない問題をやってみましょう。
ボランティアを主題としたテーマ型のものです。
課題文が全くないので、最初は戸惑うかもしれません。
問題文をそのまま載せます。
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A村は高齢化が進んだ山間の豪雪地帯にあり、毎年屋根の雪下ろしが追いつかず、家屋の倒壊が相次いでいた。
そこで、A村の近くにあるB大学では卒業に必要な科目として、A村における除雪のボランティア活動を設定し、B大学の学生に対してA村における除雪のボランティア活動を事実上義務付けた。
このことの是非について、1000字以内で答えなさい。
典型的なテーマ型の問題ですね。
最近の小論文の傾向は圧倒的に課題文型が多く、文系では60%を超えています。
その中でテーマ型の問題は毎年少なくなっているのです。
120分1000字という問題がどの程度の難易度であるのか。
これは受験生の実力によると考えられます。
課題文型の方が書きやすいことは言うまでもありません。
なにしろ出題されている文章の中にたくさんのヒントが散りばめられているのです。
その中の1つの論点に反駁し、対立する考え方を出せればかなりの評価が得られるのではないでしょうか。
それに対して特定のテーマに関する数行の問題文を読み、それについて自分の意見を書くというテーマ型の場合はかなり苦しいです。
一見、なんでも書けるようにも感じます。
これといった規制がまったくないからです。
そういう意味では自由です。
しかし課題になるテーマが提出されていないために、全ての論点を自分でつくりあげていかなければなりません。
国語力が必須
テーマ型小論文に必要なもの。
それは国語力そのものです。
内容を吟味し、付け加えていく力がなければ、とてもかなわないとも言えます。
ボランティアをすることがいいのか悪いのか、この場合はどうなのかといったような単純な論点だけでは相手にされないでしょう。
ポイントはたとえ短くても、与えられた設問に正対することです。
どこに問題の核心があるのかを発見し、深堀りしなくてはなりません。
もう1度設問を見てみましょう。
どこに切り口がありますか。
A村では家屋の倒壊が相次いでいるという現実があります。
住民の焦りが見えます。
高齢化社会の現実そのものです。
もう1つはボランティア活動を義務付けることの意味です。
学生たちは納得しているのでしょうか。
自発的な除雪作業ならば理解できても、それを単位として卒業要件にすることの意味はどこにあるのか。
それだけの実質をもったボランティア活動であるのかどうか。
元々の奉仕という概念と、単位として取らなければならない活動との差は想像以上に大きなものといえるでしょう。
ボランティア精神を理解した上で、義務化しなくてはならない事情を論じていくことが最後まできちんとできるかどうか。
自分の考えをある程度まで煮詰めなくてはなりません。
主張の方向
120分1000字です。
考えようによっては、たっぷりと時間があります。
しかしきちんと煮詰まらない人にとっては、焦るだけの時間となりそうですね。
最初に自分の主張の方向性をどこに向けるか。
起点をどこにするのか。
自分自身の経験の中にボランティア活動があるのかどうか。
その際に感じたことや疑問に思ったことは何か。
いくつものファクターを冷静に並べてみなければなりません。
制限時数1000字の中で説得力のある論考をまとめるとなると、論理だけで進めるのは少し難しいでしょう。
当然、例話も必要になります。
自分の体験、伝聞、新聞記事、読書経験などあらゆるアンテナを十分に使い書き込まなければなりません。
当事者意識が絶対に必要です。
自分がその立場にいたとしたら、どのような意見を持つのか。
何を最初に考え、判断を下すのか。
それを文章の前面に出す工夫をしなければなりません。
強制されるようなボランティアは本来のものではないとする反対論も十分考えられます。
ボランティアは好奇心だけで続けられるような質のものではないという論理で進めることも可能です。
しかし逆にある意味で外からの要請に従うということの意味も考えなくてはなりません。
過去には、仕事や義務から出発した活動が、本来の意味でのボランティアになったという例もあります。
NPOやNGOなどの活動でもすべてが無報酬で行われているワケではありません。
さまざまな事例を知っているだけで、より視野の広がりを得られるのではないでしょうか。
あるいは報酬と無関係で続けられているボランティアの意味は何か。
学業の単位とくっつけて学生にやらせる意味は何か。
そのような活動に本当の意義があるのか。
最近では町おこしの一環として、住居を安く学生に提供し、そのかわりに祭りや住民運動の手伝いを求めている自治体もあります。
さまざまな面から1つの問題を探っていくと、ボランティアという言葉の狭さだけにとらわれない可能性を探ることもできるでしょう。
論理の組み立て
制限字数は1000字です。
確実な論理の組み立てが必要です。
なんとなく自分の経験を書いて字数を稼ぐなどというのはNGです。
例話は全体の30%以下にしてください。
300字が限度です。
あくまでも自分の意見をより深く理解してもらうための材料に使うという考え方が基本です。
それ以上に長くしてはいけません。
小論文はどこまでいっても論理が命です。
自分の立ち位置を明確にすることです。
自分勝手な自己満足のためのボランティアでは意味を持たないとする論点も可能です。
そういう意味で大学が組織的に困った老人たちを助けていくことには反対ではない。
しかし単位の1部とするという考え方には納得できないという書き方もできます。
あるいは単位になるから出かけたものの、本当に感謝され、喜んでくれた時の高齢者の表情を見た時、社会のために少しでも貢献できることの意義を感じたという論点もあります。
どちらの立場でも書けるのです。
ただ頭から反対を論じるのではなく、細かくその活動の内部に分け入って、自分の気持ちと正直に向かい合う姿勢が大切でしょう。
ある意味では肩ひじ張った活動ではなく、柔らかなネットワークの中での行動という側面も大切にしてもらいたいのです。
いろいろな角度から書ける問題なので、バリエーションが豊富になる気がします。
答案をけっして杓子定規なものにしないことも大切でしょう。
大学で学び伸びる力を十分に持っているということをアピールしましょう。
精神の柔らかさが殊に大切だと思います。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。