「町田高校推薦・オーバーツーリズム」価値観と文化の違いをどう乗り越えるのか

小論文

推薦入試とは

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回は令和7年度最新の入試問題を扱います。

都立高校は一般入試に先立って、推薦入試を行っています。

試験は英数理社国のいわゆる教科科目ではありません。

合否は内申点の評価50%と小論文と面接の合計点50%を、合算したもので判断します。

最近の傾向としては面接よりも、小論文の評価を高くみる学校が多いようです。

問題の内容は千差万別です。

レベルの高い高校では、非常に難解な課題文が出題されることが多いです。

グラフの読み取りなどもあります。

わずか50分の中で2~3問の出題に答えなければなりません。

内容も文化、文化、言語などから理系の知識を応用したものまで、実に幅広いです。

大学の推薦入試よりも難しいと感じることが、何度もありました。

とはいえ、全てが高レベルの問題というわけではありません。

入学後、どのように友人たちと切磋琢磨し、豊かな知識を身につけ、社会に巣立っていきたいのかという希望や夢を訊ねるといったものもあります。

過去問をしっかり研究することが、なによりも大切です。

ところが最近では必ずしも問題文がネットに掲載されないケースもあるようです。

ぜひ、学校や塾などを通じてデータを収集してください。

なかには、たった一行だけの問題を毎年出題している学校もあります。

課題文は短ければ短いほど、難易度があがります。

具体的な経験を必ず書けといった問題も多いので、入試までにかなり練習をする必要があります。

今回は町田高校で出題された課題文をみてみましょう。

オーバーツーリズム

今年度の課題は「オーバーツーリズム」でした。

最近、マスコミでもよく取り上げられていますね。

コロナ禍が去り、世界中から物価が安く安全な日本に旅行者が押し寄せています。

外貨獲得という側面からみれば、評価はできますが、話は単純ではありません。

観光公害と呼ばれる事象も見られるのです。

オーバーツーリズムの定義は人気のある観光地に、旅行者が過度に集中することをさします。

それが地域の文化や環境に悪影響を及ぼすというのが、最大の関心事なのです。

文化論の立場から、解決策を探ろうというのが、今回の主旨でした。

課題文を読んでみてください。

筆者は地球環境学者、田中俊徳氏です。

課題文

日本人が法律に規定されずともルールやマナーを守ることは世界でも広く知られている。

東日本大震災の後に、暴動も略奪も起こらず、静かに給水車や配給の列に並んでいる人々の光景を世界は賞賛した。

しかし、海外では必ずしもそうではない。

私の友人であるハワイ州政府の登山道管理者は、ハワイでは登山道の標識を新設してから1カ月もすれば、落書きされるか蹴られるなどして破損することが日常茶飯事だと言っていた。

そのために頻繁なパトロールが欠かせないとのことだった。

日本ではそのようなことはあまり考えられないし、「パトロールはほとんどしていない」と言ったら彼は
とても驚いていた。

また、環境条約に関する国際会議でスロヴェニアに行った際、私は国立公園をはじめとする日本の多くの自然観光地が、法律に基づかない「自主的なルール」(自主ルール)で守られていることを話した。

こうした法理に基づかないルールも、上手に使えば、保全効果が高いという提案をしたのだった。

しかし、「拘束力のない自主的なルールを守るのは日本人だけだ。日本以外では絶対に通用しない」(つまり、一般化できない)と批判された。

その時は悔しい思いもしたが、おそらくこれは事実である。

それくらい日本が良い意味でも特殊であることは理解しておいてよい。

また、ネパールで著名な観光地を回った際に、プラごみのあまりの多さに眩暈がしたことを覚えているが、国によっては、ゴミのポイ捨ては当たり前だと思っている人もいる。

ゴミを捨てないと、ゴミを掃除する人の仕事を奪うと考えている人もいる。

つまり、文化や価値観は極めて多様で、そうした様々な人が日本にやってくるということである。

もちろん日本人も手放しで褒められるものではない。

geralt / Pixabay

かつてヨーロッパの大聖堂や古城では、日本人の落書きがたくさん見られた。

SNS時代になり簡単に名前をさらされるようになったので、落書きは急速に減っているようだが、私はいたるところで恥ずかしい思いをしたことを覚えている。

日本人は「恥の文化」(関心のある方は、ルース・ベネディクト『菊と刀』を参照のこと)なので、法律に規定されているか否かを問わずに、「世間の目」を怖れてルールやマナーを守る傾向がある。

しかし世間の目が届かない外国や旅先では、「旅の恥はかき捨て」となりやすく、他の人も落書きをしていれば、「みんなで渡れば怖くない」という気持ちにもなりやすいように思う。

どの国の文化にもそれぞれの美徳や欠点がある。

私たちは寛容さを忘れてはいけないし、その背景や価値観の違いにも思いを馳せ、守るべき部分と譲歩できる部分を真摯に考えることが重要である。

これは一方的に「おもてなし」を押し付けることよりも重要なことだろう。

「オーバーツーリズム解決論 日本の現状と改善戦略」

設問

課題文に付属した設問は以下の通りです。

文化や価値観は極めて多様で、そうした様々な人が日本にやってくる」という文章において、そのような人々を日本に迎える立場として大切にすべきことは何か。

また本校に入学後、多様な生徒との出会いの中でどのような点に留意したらいいのか。

以上の2点をついて本文を踏まえ、具体的な場面をあげて400字程度で答えなさい。

この問題の難しさは幾つかの条件を満たさなければならないことです。

簡単そうで意外に厄介なのが字数です。

この問題では、わずか400字しかありません。

原稿用紙1枚です。

これだけのテーマをこの字数の中にまとめるには、かなりの技量を必要とします。

さらに具体的な場面をあげろとう指示もあります。

多様な生徒との出会いの中、という条件をクリアしなければいけないことも必須です。

どのように書き出せばいいのか、悩みますね。

筆者は課題文の中で、次のように書いています。

私たちは寛容さを忘れてはいけないし、その背景や価値観の違いにも思いを馳せ、守るべき部分と譲歩できる部分を真摯に考えることが重要である。

ここにキーワードが含まれています。

「寛容」「価値観」「守るべき部分」「譲歩」などがそれにあたります

この文の内容を自分なりに、敷衍してまとめるというのが基本的なスタンスではないでしょうか。

オーバーツーリズムの問題と関連させてみると、つぎのようなことが言えそうです。

自分とは違う文化や習慣を持つ人々に対して柔軟な心を持ち、受け入れる姿勢を大切にし、異なる価値観や生活様式を尊重する。

この文言につきるのではないでしょうか。

これが新しい環境に入った後、人々が根本的にとらなければならない姿勢です。

このことと、入学後の自分の姿を重ねるのが最善の構成だと言えます。

基本は一言でいえば、「オープンマインド」を持とうということです。

字数が非常に少ないので、オーバーツーリズムに関わりすぎると、自分の経験をそこに重ねることは難しくなります。

しかし全く触れないというのは避けるべきです。

そのあたりがこの問題の難しさかもしれません。

解答への糸口

さまざまな価値観を持つ人間を日本に迎える立場として大切にすべきことは何かという問いに対しては、最低限、答えなくてはなりません。

柔軟な心と他者を受け入れる姿勢を強調し、そこから自分の入学後の立ち位置を示すという書き方が最善だと考えます。

クラス、クラブ、委員会の活動などを通じて、あるいはさまざまな行事を通じて人間関係を築き上げることの難しさと、それが達成された時の喜びを示すことです。

さまざまな価値観を持った友人と、互いに理解しあうために、かたくなであってはなりません。

新しい環境の中で、それぞれの人間が自分の価値観や文化を主張しすぎれば、当然のように軋轢が生じます。

それをどのようにして収束したらいいのか。

確かに難しいテーマですね。

しかしそれを正確に書くことがここでの主題となるはずです。

基本は他者に対する敬意を失わないことにつきます。

他者の価値観を理解するための、多様性を自らの中にはぐくむこと。

ともすれば敵と味方を分別して、攻撃することが現在の社会のありようともいえます。

SNSの活用なども、そうした方向に向かっています。

ところがそれでは「オープンマインド」を醸成することはできません。

ここが最大のポイントなのです。

あなた自身の体験をうまく織り込んで、全体をまとめてみてください。

練習が不十分だと、こなれた文章にはなりません。

ぜひ、実際に書いてみることをお勧めします。

ポイントが見えてくれば、小論文はけっして難しいものではないのです。

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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