「わからない」を長く抱きしめる勇気「多様性社会における共生」

ノート

多様性社会の実像

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回はSDGsの中でも最もよく使われる「多様性」という表現の内部を探ってみましょう。

このテーマは小論文入試にもよく出題されますね。

なんとなくわかったような気がするものの、その守備範囲は広く、どこまで追求しても終わりがありません。

多様性という考え方は日々の暮らしに直結しています。

教育、行政、労働、医療、子育てなど、さまざまなテーマと絡められるので、どの視点からでも書くことができます。

Divercity(ダイバーシティ)という表現もあわせて覚えておいてください。

その守備範囲は大変広く深いものです。

現代社会において極めて重要な問いだといえます。

ここでは、その規模感にふさわしい体系的な視点で文章を構成してみました。

なぜ、現代社会では多様性について考えなくてはならないのか。

その根本のところがいちばん厄介なのです。

ある意味で「多様性」という言葉がインフレ状態にあるといっても過言ではありません。

企業のウェブサイト、行政の広報誌、学校の目標などあらゆるところで見かけます。

カラフルな写真や笑顔などにあふれたポスターをみていると、あまりにも無菌化されすぎているようにも感じます。

実際はそれほどに単純で調和のとれたものばかりではありません。

たとえば、インバウンドの増大に伴って、多くの問題が起こっているのは誰もが知っていることですね。

中国人の旅行客が激減した昨今、SNSで繰り広げられている不愉快な発言なども、目にします。

言葉が通じない隣人への不安や理解不能な若者の行動などとあわせて、この表現が使われているのです。

多様性とは「自分自身の『普通』が揺さぶられる不安と同じ場所にあるといえるでしょう。

「わからない」相手と向き合う忍耐力がなければ、とても「多様性」などという言葉を簡単に使うことはできません。

ある大学の小論文入試の問題にいい文章がありました。

課題文

あなたは多様性と聞いて、どのようなものを想像するだろうか。

世界各地に住む様々な人種の人びと、もしくは自分が慣れ親しんでいる日常とは違ったかたちで生活をしている人びとのことを思い浮かべるだろうか。

もしかしたらあなたは、人間以外の動植物について思いを巡らせるかもしれない。

人種の多様性、文化の多様性、生物の多様性、その他にも多様性にはいろいろなカタチがある。

では、私たちがすむ世界をより持続可能なものにするために、私たちは多様性とどのように向き合うと良いのか。

まず第一歩としては、自分とは異なる「何か」を持って生きている存在を認めるということが大切なのだと思う。

色々な考えがあり、色々な生き方があっていい。

こうした多様性に寛容な姿勢が広まれば、世界はもう少し生きやすい場所になるのではないだろうか。

しかし文化人類学者の松村圭一郎が指摘するように、そこで立ち止まってしまっては、本当の意味で多様性について向き合っていることにはならない。

なぜなら「色々」を認めるだけでは、私は私、あなたはあなた、と線引きをして世界を細分化するだけで終わってしまうからだ。

ではどうすれば良いのか。

私が考えるもう一歩先に踏み込む方法は簡単ではないが、可能であると思う。

それは相手の話に耳を傾け、同意しなくてもいいからその人の言っていることについて知ろうとする姿勢を持ち、真剣に考えることだ。

こうした対話を重ねることで、個々が細分化した世界から、個々が繋つながる世界に変わっていくのではないだろうか。

もう一つ、多様性について踏み込んで向き合うために大切なことがある。

それは、多様性と「わたし」の繋がりを考えることだ。

多様性のことを考えるとき、私たちは自分以外の存在のことを想像しがちである。

しかし、多様性と向き合うということは、自分と向き合うことでもある。

私たちはどこに住んでいても、周りの人、動物、ものたちと会話をしたり、触れ合ったり、音を聞いたり、見つめたり、色々な方法で多様性と関わり合いながら「わたし」を形成している。

そのことに気づき、思いを巡らせることも多様性と向き合うための大切な一歩なのではないだろうか。

(高橋五月「多様性と共に生きる」)

設問

次の文章は、文化人類学および民俗学の研究者である高橋五月氏が、SDGsを念頭に置きながら、「多様性」について述べたものである。

筆者の意見を要約し、それに対するあなたの考えを800字以内で述べなさい。

これが問題の全てです。

あなたはどう答えますか。

800字というのは、ごく平均的な字数です。

キーワードを最初に探し出しましょう。

小論文はそれぞれの言葉に対して、正確に反応することが大切です。

自分勝手な解釈は許されません。

ここには「相手の話に耳を傾け、知ろうとする姿勢を持ち、真剣に考えること」という基本的な姿勢が示されています。

「多様性と向き合うということは、自分と向き合うこと」というポイントも大切にしなくてはなりません。

ただ相手と自分を線引きして、それ以上に踏み込まないのは多様性とは呼べないとしています。

そこからこのテーマを自分なりに考えていくことが大切なのです。

過去に他者の存在が気になり、不安にかられたことはありませんか。

その時、あなたはどうしましたか。

互いの違いを知り、そこで留まってしまったということはありませんか。

もしそうなら、それ以上には関係が深まらなかったかもしれません。

ポイントはそこにあります。

大切な視点を絶対に外してはなりません。

対話の意味

多様性とは自分とは無関係な他者の問題ではなく、周囲との関わりの中で形成されるプロセスそのものなのです。

最終的には身近な繋がりを観察し思考し続けることです。

それだけが真の共生社会を築く鍵になります。

「自分とは異なる存在を認めること」ならある程度はできます。

それは最初の承認です。

しかしこれだけなら、世界は細分化されていくだけです。

難しくいえば、いくつもの集合が次々とうまれていく現象に過ぎません。

問題はそこから先です。

それぞれの集合がどのような着地点を見つけていくのか。

多様性との共生に終わりはないのです。

周囲の存在に影響を受けながら自分自身を形成していく。

そのプロセスがどれほど大切なことか。

自分も絶えず変化する。

そしてそれにつれて相手も変化していくのです。

関係の絶対性と呼んでも差し支えないでしょう。

対話を進めて「知ろうとする」態度をいつもキープし続ける。

無理をして意見を同じにするのはベストな方法ではありません。

異なる価値観であっても繋がりを維持し続ける。

その努力が、SDGsの目指す持続可能な社会を支える土台となるのです。

言うは易く行うは難しという言葉がいちばんピッタリしますね。

それほど時間のかかる長い道のりだということです。

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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