ファーストフード
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は食の問題を考えます。
このテーマはどのような形でも出題が可能です。
私たちの日常生活に直結しているだけに、あらゆる視点から問題にできるのです。
もちろん、SDGsの飢餓、農業、自然の課題とも隣り合っています。
その中で今回はファーストフードに着目してみました。
アメリカから始まったこの食習慣は、まさに効率優先の飲食産業です。
どの地域でも同じものを提供するという基本理念は全く揺らいでいません。
かつてぼくの家に数日滞在したマレーシア人の高校生は、なんにも食事が口に合わず、結局マックへ連れていくしかなかったなどという記憶があるくらいです。
それほど世界のいたるところに流通しています。
食のグローバル化などと暢気に構えてはいられません。
多くの問題を孕んでいるからです。
かなり前に狂牛病の騒ぎが世界を覆いましたね。
飼料や食肉は、世界中を包み込んでいるのです。
そこだけで流通していたイタリアのある地域などでは、狂牛病に見舞われませんでした。
産地の多様性を重視しようというところから、イタリアでは逆にスローフード運動なども盛んです。
ファーストフードの問題は、単に同じ味の食品が世界にまん延しているということだけにとどまりません。
その背景には大量生産のための品種改良なども含まれています。
特に早く丈夫に育つ苗の育成や、種の開発には余念がありません。
よく話題になる遺伝子組み換えがそれです。
今後どのような形で人々に影響を及ぼすのかということも、正確にはわかっていません。
この問題はどのような視点からまとめるかで、評価が大きくかわってきます。
課題文に対して設問は何なのかという点をじっくりと見届けて下さい。
ちなみに今回の問いかけは以下の通りです。
この文章を読んで、あなたはこれからの日本の食文化はどのような方向に進むべきだと考えますか。あなたの意見を1000字から1200字以内で書きなさい。
これは福岡教育大学教育学部に出された問題です。
筆者は作家の島田雅彦氏です。
課題文
ファーストフードは徹底して資本の原理に基づいている。
いかに合理的に稼ぐか、ほとんど狂信的とも言える態度で、そのテーマを追求するアメリカ人が打ち立てた産業、それがファーストフードだ。
営利のためには手段を選ばないその姿勢は、残酷でさえある。
マクドナルドのようにグローバリズムとほとんど同義になっているような多国籍企業は、原材料の牛肉の安定供給を確保し、その低価格を維持するために、飼料の遺伝子を組み換え、品種改良を図り、牛肉の増産を測る。
その資料を穀物として消費すれば、地球上から飢餓はなくなるという計算が出ているが、それにもかかわらずハンバーガーの消費拡大が優先される。
また、賃金コストを徹底して削減するために、9割以上の労働力を最低賃金に据え置き、不法労働者をこき使い、しかも雇用対策のための国家援助まで受けている、という。
味覚がまだ十分に発達していない子供の時期から単純なマックの味に慣れさせ、一生それなしにはいられない体にしてしまう。
そんな戦略が思いっきり幸福そうな家庭のイメージでカモフラージュされ、マスメディアをおおっている。
幸福な家庭ならもっともっとまともなものを食えよ、とつい茶々を入れたくなる。(中略)
一生同じものを食べ続けても飽きない料理を開発したという点では ハンバーガーもサンドイッチもピッツァも優れた料理ではあるが、それがファーストフードになり世界市場の商品となった時点で食文化の発展は終わった。
もはや、味も値段も統一され、素材がどうの旬がどうのと、こだわること自体をやめてしまった。
それは確かに20世紀の産業革命ではあった。
設問の意味
日本の食文化は今後どうあるべきかというのが、設問のポイントです。
和食に対する世界の目は基本的に好意的なものが多いようです。
となると、筆者の論点に近いものになっていくのでしょうか。
和食の要は食材と出汁です。
昆布や鰹節などを煮だして、おいしい出汁をとるという習慣が今もあります。
最近では出汁をメインの商品として販売している店舗が都心にも数多く出店しています。
評判も上々のようです。
全てを科学調味料で味付けしてしまうという方向とは、正反対といっていいでしょう。
しかし一方ではレトルト商品なども時短のために、多く出回っています。
問題はどちらの立場から見るかで、全く違う表情をみせるということです。
食のグローバル化を肯定するのかどうか。
日本国内の問題でいえば、食料の自給率をどう考えるのか。
あなたの立場をある程度明確にしなくてはなりません。
筆者はスローフード派に近いようです。
賛成の立場から書くのならば、このまま日本でも推進すればいいという論点て書けばいいでしょう。
食品添加物に対する危険性がこの問題の背後にはあるという形で、筆者の文章に不足しているところを補う形でまとめることもできます。
反対の立場は食のグローバル化を認める点を前面に出せばいいでしょう。
たとえ、ジャンクフードといわれても、世界的に受け入れられている理由がどこにあるのか。
なるべく多くの人を飢餓から救うためにも、安価で販売できる食品の存在が必要であるという論点も説得力があるでしょう。
スローフードの是非
ファーストフードに対する賛否は、その裏側にスローフードを抱えています。
現実に日本人の食卓はどうでしょうか。
時に和食を食べたいと思う人でも、現実には世界中の料理に手を出しています。
中華、イタリアン、カレーなとどいった子供の好きな料理を取り除くことはできません。
したがって、単純にスローフードを進めていけば、それで解決するという論点に持っていくのもなかなか難しいです。
食の多国籍化という現象はどこの国にもあります。
しかし日本の場合はそれがかなりのレベルまで進んでいるのです。
専門店もたくさんあり、珍しい食材を手に入れることも可能です。
となると、単純な論点だけではYesNoに結びつきません。
ここでキーワードを何にするかを真剣に考えてください。
どうしても避けて通れないのが、食料の自給率でしょう。
ロシアのウクライナ侵攻で明らかになったのは、小麦の値上がりがあっという間に他の食品にも影響を与えたことです。
輸入の段階でのチェックをいくらしても、輸入量が減ってしまえば意味を持ちません。
よくいわれる「地産地消」の考え方がどれほど大切なものかということはここで強調しておくべきでしょう。
農薬をなるべく使わないで収穫し、安全な食文化を維持するということも大きな課題の1つなのです。
スローフードという言葉だけが先行してしまうと、ポイントがはっきりみえなくなります。
どちらの立場にせよ、可能なことは全て実現させるという基本的な路線を強調することは可能です。
自分自身の健康と世界の食料の流れとを重ね合わせて論じることも、大切です。
もう1度、あなたなりの考えをまとめておいてください。
ロシアのウクライナ侵攻で、エネルギーと食料は喫緊の問題になりつつあります。
2023年度の入試にも主題されると考えておくべきです。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。