オリジナルであるために
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は短文型小論文の実例を考えてみましょう。
設問はわずか1行です。
オリジナルになることの厳しさを述べた文言です。
設問は以下の通りです。
一緒に考えてみてください。
ある世界的な音楽家は「オリジナルであるために学び続けろ」と言いました。
「オリジナルであるために学び続ける」とは、どういうことだと考えますか。
また、この言葉を踏まえて、あなたは本校に入学後、どのようなことを、どのように学びたいと考えていますか。
自分の考えをまとめて記述しなさい。(600字以上~800字以内)
これがすべてです。
亡くなった作曲家の坂本龍一の言葉です。
世界的に活躍するようになればなるほど、他者との違いを明確にし、尖った存在でなければなりません。
その苦しさは頂点に達しようとしている人ほど、強く感じるものであるに違いないのです。
道のりは孤独で苦しいはずです。
それでも学びに終わりはありません。
表現者は「守破離」という表現をよく使いますね。
他者を模倣することから始まり、やがてその殻を破り離れることをさします。
この作業の繰り返しこそが、新しいものを創り出すために必要だというわけです。
今回の問題は令和5年度、保谷高校で出題された推薦入試の問題です。
「オリジナリティ」という言葉は「origin」という単語から派生しました。
もともとは「起源」をさします。
そこから今日、オリジナリティは「独創性」という新たな意味を獲得しました。
つまり独創的であるために必要なことは何かというのが、この問いのテーマなのです。
意味を深堀りする
「オリジナルであるために学び続ける」とはどういうことか。
もう少し掘り下げて考えてみましょう。
基本は自分の創造性や独自性を維持、発展させるための方法は何かという問題です。
そのための第1段階は通常、徹底的な模倣から始まるというのが基本的な考え方です。
精密な模写、デッサン、聴音などが繰り返すのはなぜか。
それは目や耳をひたすら養うためです。
もちろん音楽や美術だけにとどまるわけではありません。
あらゆる学芸に通じる道です。
同じ作業の繰り返しの中で、本当の力が花開いていくのです。
それはなんのためなのか。
絶えず新しい知識や技術を取り入れ、自己を更新し続けていくからです。
模倣することそのものが、初心者にとっては新鮮な道なのです。
しかしその段階がある程度進むと、必ず模倣だけにはおさまらない、その人独自の形がみえてくるものです。
そこからが「守破離」の「破」の段階です。
誰でもがこの段階に達するのでしょうか。
そんなことはありません。
模倣を繰り返し、そこで疲れ果てて終わる人もたくさんいます。
むしろ大多数の人は、この段階にとどまるのです。
情報過多の時代
現代の社会は、情報があまりにも過多です。
変化も激しいのです。
その中で、模倣だけを続けることは苦しいに違いありません。
だからこそ、そこを破りたいと考えることはごくノーマルなことです。
しかしだからといって、それが簡単にできると考えてはいけません。
誰もが「破」の段階へすぐに進めるのかどうか。
オリジナリティを作り上げたいと模索する衝動は誰にもあることでしょう。
なぜでしょうか。
他者と同じでは上達にも限度があるからです。
少しでも新しい技、動き、学説、思想を身にまとって先に立ちたい。
だからこそ、「破」への衝動は強いものがあります。
他者との差別化を図り、自身のアイデンティティを確立することが喫緊のテーマとなるのです。
しかしそれは容易なことではありません。
孤独を強く意識する時間が増え、自らの実力と正対しなければならないのです。
苦しいことばかりが増えます。
モチベーションの維持も図らなければ、すぐに挫折してしまいます。
どうしたらいいのでしょうか。
学びを愚直に続けるしかないのです。
例えば、ある著名なアーティストがいるとしましょう。
新しい技術やトレンドに目を配り、さまざまなジャンルの芸術作品に触れることで、自身の表現方法を模索しているとします。
現代の技法を学ぶ一方で、古典的な方法にも挑戦するはずです。
模倣の段階を早く終えて、次の段階に進みたいからです。
しかしそう簡単ではありません。
そこで、独自のスタイルを確立するために苦しむのです。
そのような段階をやっと飛び越え、他者と一線を画す努力をします。
しかし当然のことながら、それがすぐに認められるとは限りません。
時には深い懐疑の谷に落ちてしまうこともあります。
楽しんでやっているからと声高に叫んでみても空しいだけです。
しかしその努力を続けていく以外に道はありません。
やがて「離」の世界に達することも可能になると信じる以外にないのです。
学び続けること
学び続けることは、単に知識や技術を増やすだけではなく、自身の考え方や視点を広げることにもつながります。
異なる文化や思想に触れることで、多角的な視点を持つこともできます。
より深い洞察を得ることができるのです。
このあたりでやっとその端にたどり着くことができたかというところでしょうか。
オリジナルなアイデアや解決策を生み出す土壌が、次第に形成されつつあるからです。
学ぶことは成長と創造性の発展に不可欠です。
他者との差別化を図り、自身の独自性を確立することが可能になり始めるための唯一の方法です。
学び続ける姿勢は、オリジナリティを追求する上での基盤そのものなのです。
これは芸術だけの話ではありません。
あらゆる学問にも通じます。
本当にすぐれた研究者は、つねに創造的です。
ありきたりの説の繰り返しでは、自分でも納得できません。
現代においてもっとも重要なスキルの1つなのです。
自己成長との関係
学び続けることで専門知識やスキルが向上することは、容易に想像できます。
しかし大切なのはそれだけではありません。
学びは本質的な自己成長を促します。
新しいことを学ぶ過程で、自己理解が深まり、自分の強みや弱みを把握することができるからです。
同時に同じ分野の専門家とつながる機会が増えることも財産になります。
他者にインスパイアーされることの重要性はいうまでもありません。
人脈を築くことも可能になります。
さらに、学び続ける姿勢は、柔軟性と適応力を高めます。
自己のモチベーションや情熱を保つ手段にもなるのです。
新しい知識を得ることは、芸術や学問に対する興味や楽しさを再確認させます。
またキャリアアップなどの場面でもこれらの要素を考慮すると、スキルの向上だけにとどまらないのです。
モチベーションの維持をもたらすことがわかります。
学んだ知識を実際に使ってみることです。
そうすれば、たとえ失敗したとしても、理解が深まります。
そこから新しい目標の設定や計画的な学びも生まれるのです。
大切なポイントは他者との比較ばかりをするのではなく、自分のスタイル尊重することです。
もちろん、すぐれたところを会得するための素直さや謙虚さは必要です。
しかし自分に合った方法をつねに考え、自分の経験を重視することが大切なのです。
必要なことはすべて、自分の内部にあります。
特性を見抜き、環境に応じたアプローチを試す。
それがやがて大きな実りを生みます。
最適な学び方を見つけた時、あなたは以前にもまして強い基盤を得ることができるに違いないのです。
ここにあげた内容を吟味してみましょう。
あなた自身の経験のなかで、ここに示した内容に合致することはないでしょうか。
文章をぜひ構成してみてください。
期待しています。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。