「令和7年国立高校小論文」文化人類学の立場からアフリカ人の合理性を考える

小論文

文化人類学

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回は令和7年度の都立国立高校推薦入試の問題を取り上げます。

大問が2問あり、問1は文化人類学に関するテーマです。

かなりの長文が2つ出されています。

問2はカードの順番を考える数学の問題です。

60分でこの問題を解くのはかなり難しいです。

特に前半の長文については、多くの生徒が考えたことのないテーマであったと思われます。

中学校で、ここまでの内容をとりあげて学ぶことはほとんどないでしょう。

日常的に新書などを読んで、見識を広げておく必要があります。

しかし全く関心がなければ、すぐに内容を理解して文章をまとめるのは難しいです。

難関の高校を受験する生徒は、例年の問題傾向をきちんと把握しておく必要があります。

メインテーマはアフリカです。

先進国の人びとは自分の価値観でものごとを判断しがちですね。

しかし現地の人たちは、高い見識と対応力を持って生活をしているという現実を直視しなければなりません。

アフリカ人異質論で片づけてしまったのでは、全ての内容から整合性が抜け落ちてしまいます。

それだけにこの文章を読んでどう解釈し、解答を作りだすのかが、大きなポイントになります。

一般論ではいい解答を書けません。

ここでは文章1だけを取り上げました。

しかしポイントは文章2との関係です。

PDFをそのまま貼り付けてありますので、時間があったらじっくりと読んでください。

あらかじめ解答例を読まずに、とにかく自分の言葉で解答を書いてみること。

それここでは最も大切なことです。

ザンビア体験

個人的なことを書きますが、ぼくはかなり前にJICAの研修でザンビアというアフリカ中部の国へ2週間ほど行ったことがあります。

その時に見聞した内容とリンクして、ここに示されている内容の正確さがよく理解できました。

やはり実際に自分の目で見るということは、有効です。

特に文章2には「呪い」という表現がでてきます。

この言葉を見ただけで、アフリカの人はなんて非合理的で迷信深い人々だろうと考えがちです。

しかしこれは自分の価値観を前面に出して理解した時、大きな誤りを犯しがちになるという典型的なケースを示しています。

日本人の持つ風習にしても、論理で理解できないことはいくらでもあります。

例えば、仏滅の日に結婚式はしたがらない。

同様に、友引の日には葬祭なども嫌われます。

超高層ビルの起工式なども神主の祝詞や神事とセットになります。

今でも空港ビルの屋上には、必ず神社が据え置かれています。

あるいは厄払い、方位除けなど、いくらでも似たような非合理性は日本にもみられるのです。

しかしそれを日本人異質論で片づけてしまったのでは、本当のところが見えてこないというのも事実なのです。

アフリカで行われている、一見不合理な事実の中に、実は大きな意味が隠されているというこの文章の本質を読み解いてください。

全文は載せられなかったので、一部省略してあります。

なお、問題文2については添付のPDFを参照してください。

filelink-pdffile-31172

文章1

アフリカで、すぐには理解しにくいことに当面すると、外国人は「これがアフリカなのですよ」で片づけることが多い。

つまりアフリカ人は後れていて、我々とは違った考え方をし、我々には分からない行動に出るというアフリカ異質論である。

アフリカ異質論は、日本人異質論と同じく、これを肯定すれば、何事も説明できる便利なものである。

しかし同時に理性的な対話の可能性を否定し、問題解決には役に立たないものである。

このような異質論は、アフリカを理解する努力を放棄するものであり、また自分の考え方がつねに正しく、アフリカ人の考え方は後れているという思い上がりからきている。

ルワンダにはバナナ畑が一面に広がっている。

農林省のベルギー人顧問は、ルワンダ人は、一番肥沃な土地に外貨を稼ぐコーヒーを植えないで、ビールにするバナナを植えていると嘆いていた。

私もルワンダ人にバナナは何にするのかと聞いたが、ビールにするとのことであった。

しかし、納得できないので、今度は、ルワンダ人の食事について聞いたら、一番好きなのは豆類、次は芋類、次にバナナだとのことであった。

それでは一家を構えるために畑を開墾して、一番先に植えるのは何かと聞いたら、バナナ、次には芋、最後に豆を植えるとのことだった。

なぜ嗜好の逆の順序に植えるのかと聞いたら、バナナは天候の変化や、病・虫・鳥害に強く、どんな土地でも生育し、短期間で成長し、つねに実が豊富になるからだ。

芋は十分な大きさに成長するのにはバナナよりは時間がかかるが、季節に関係なく、成育すれば一年中何時でも収穫でき、天候に影響されない。

これに比べ豆は収穫までの時間が長く、収穫量も少なく、年二回の雨季に植え付けしなければならないので、年に二回収穫され、しかも天候の変化や病・虫・鳥害に弱い。

さらに、ルワンダの固い土には豆、その他の一般作物はうまく成育しないので、バナナの落ち葉を土に鋤きこんで土地を改良してから、植えることが必要であり、また、若芽の頃は強い日射には弱いので、バナナの葉陰で保護しなければならないからだとのことであった。

当時のルワンダ農民のほとんど全部は自活農であり、彼らにとっては家族の食料の安定確保が第一であることから考えれば、たとえ嗜好的にはまずくても、

一年中天候に関係なく実るバナナをまず植え、ついで芋類を植え、それで十分な食料が確保されてから嗜好的に好ましい豆を植えるこの農作法はまことに合理的なものである。(中略)

アフリカでは、川や池の水は寄生虫が多く、マラリヤ蚊や河盲症のブヨが繁殖しているので、人家は水辺を避けて建てられ、清浄な水は家の女子供が遠く泉まで汲みにいかなければならない。

泉から運んできた飲料水は溜めたまま放置すれば悪くなるばかりでなく、ブヨなどが発生するので、飲料水の保存方法としてビールにするのである。

服部正也 「援助する国される国 アフリカが成長するために」

解答への糸口

実は文章1の後に、さらに長い文章2が続きます。

この2つの文章を読むだけで、たっぷり15分はかかります。

分量としてはA4の用紙に4枚分あります。

初めて触れる内容でしょうから、特に文章2は理解するのにとまどうかもしれません。

けっして難しい内容ではありません。

ただしそこで読みこむ内容は、「過少生産」の実態です。

経済的な動機が支配的な、商品経済に取り込まれた国々では、絶対に考えられない、商品流通の仕組みです。

それだけに、理解するのが案外難しいのではないでしょうか。

焼畑農耕民社会の持つ平準化への志向がきちんとみえないと、この文章の内容は理解できません。

すなわち、後半の問いにたいして、正確な解答が出せないということになります。

「分け与える」ことに関する社会的な規範が、他の人からの「妬み」への怖れに支えられた社会の構造はなかなか理解しずらいものです。

これはぼくが現実にザンビアの博物館で見た「呪い」のための装置などを知っていたので、実感できました。

装置などというと、大袈裟かもしれません。

単純にいえば、動物の骨です。

それが家の前に置かれていたら、「呪い」をかけられているということでした。

実際、その後で家人が殺されるという事件もあると聞いたときは、本当に驚きましたね。

問題1~問題3

問いは3つ出されています。

問題1

文章1から読み取れる、ルワンダ人がバナナを優先的に植える理由を80字以内で説明しなさい。

問題2

生産の上限を規定するのは、経済ではなく社会関係なのであり、とあるがこれはどういうことか。
90字以内で説明しなさい。

問題3

2つの文章で述べられているような、理解しがたいと思えることに直面た際、あなたはそれをどのように捉え行動するか。

2つの文章に共通する主旨をあげた上で、あなたの考えを150字以内で述べなさい。

解答例

問1

バナナは病害虫や天候に強く常に実り、短期間で成長するため、家族の食料安定確保に不可欠である。また、落ち葉が土壌改良を促し、その葉陰が他の作物の若芽を保護する効果もある。

問2

過剰な生産は、社会規範により他者への分与が必須となり、結果として生産が抑制される。豊かさは生産物の公平な分配で実現し、経済は社会関係と不可分なものとして機能している。

問3

共通するのは、理解しがたい異文化の行動にも、その社会の文脈に根差した合理性や知恵があるということである。私は自らの偏見を排し、相手の状況や価値観を深く探る対話や観察を通じて、その背景にある合理性を理解しようと努めていきたい。

以上です。

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

タイトルとURLをコピーしました